少し前に、スレッズで小出しにしていた話を共有させていただきます。
ユーザーさんよりはメーカーさんに読んでいただき、ディスカッションをしたい内容です。よければご覧ください。
靴というプロダクトのハードル
お客さんに購入してもらうだけじゃなくて、購入してもらってさらに喜んでもらえないとビジネスって長続きしないわけですが、そもそもお客さんに手にとってもらえなかったら、喜んですらもらえません。
靴以外のビジネスにおいても多くの場合がきっと同じです。でも靴の場合は、1杯1,000円のらーめんとはワケが違います。数万、数十万円はあたりまえ。
さらに、既成靴であれば足に合うこともひとつ大切な要素になるので、とにかくハードルが高い。試着してみたけど、足に合わなかったということが多々あります。
でもやはり、履いてみないとわからない。
なので、購入という高い高いハードルのひとつ前の試着という高いハードルをどう超えてもらうかってのが、すごく大事なことことだと思います。
それを超えたくなる見せ方や施策ができているところは上手だなって思いますよね。
良い靴作っても、まず履いてもらえなかったら喜びを感じてもらえないじゃんって話と、さらに履きたいと思うかどうかって、当然のことながら履いて決めるわけじゃなくて、「履く前」に決めるわけですね。
そのためには「とにかく試着しにおいでよ」だけじゃなくて、いかに試着したいと思ってもらうかってのが大事なのかもしれません。
じゃあどうすれば、その「履きたい」という気持ちを高められるのか、考えてみたいと思います。
ビスポークシューズは世界観
極端な例ですが、例えばビスポークシューズの場合。
足に合わせて作ってもらうのがビスポークなので、足に合うかどうかはある程度補償されているとすると、試着のハードル云々は恐らく関係なくて、大きく立ちはだかるのは30万円〜っていう金銭的なハードルかと考えます。
そしてその金銭的なハードルを超えられる人が、どのビスポークメーカーを選ぶかは、SNSを通して発信される各々の「世界観」が、気にいるかどうかってところだと思います。
あとは雑誌に掲載された、みたいな社会的な証明もあるかもですね。
なのでビスポークの場合、重要なのはその世界観ってのがどれだけ濃く表現できるかってところで、そこがおもしろいところ。足に合うかどうかという問題よりも、この職人さんに作ってほしい!と思ってもらえるかということ。
ビスポークに限らず少数精鋭で作ってるメーカーやブランドも世界観を比較的表現しやすいと思います。靴作りは往々にして分業制が多いわけですが、少数精鋭であることによって、作業者がそのブランドの世界観を理解した上で靴作りができるから、かと考えます。
JOE WORKS さんのような、浅草周辺のオーダーブランドはそのポジションですかね。
量産靴の場合
一方で量産靴はどうでしょう?ビスポークとは対局にある存在かと考えます。
革靴ってそもそもデザインが似ていて、価格帯も近くて…となると木型で勝負する?みたいな話にはなるかもしれませんが、もし木型や履き心地の訴求、もしくはその他独自の取り組みや魅力すらなければ他ブランドとの差別化ができず、その結果価格競争を強いられるほかありません。
そうならないためにはブランドが靴を通して表現したことや、ユーザーに対するベネフィットが十分伝わっていなければなりません。
量産とは言えないかもしれませんが、独創的なデザインの靴を展開しているところも稀にありますので、そういうブランドは差別化や独自の役割は提示しやすいかもしれません。
ただ、多くの革靴はビジネスユースを想定して作られているので、尖ったデザインの靴が受け入れられにくいのも革靴というプロダクトの難しさでもあると思います。
また、そういった独自の役割やベネフィットが提示しにくい理由のひとつとして、メーカーは「自社で売る」ということをしてこなかったからという背景があります。自社で販売しているところもありますが、そうでなければOEMでもPBでも、百貨店や商社に販売を任せていて、売ることよりも作ることに徹してきた、そんなメーカーさんは案外多いです。
となると百貨店や商社のほうがユーザーとの距離が近いため、そこに集まったユーザーの声をもとに、百貨店や商社からの意見で企画される商品も多く、メーカーとユーザーには距離があったと言わざるをえないケースも多々ある。
量産体制の弊害
ここ数年、洋服がカジュアルになり、靴もカジュアルなものへの需要が高まりましたが、ローファーや外羽根を積極的に打ち出しているブランドも見かけます。
一方で、カジュアルも多少あるけれども、ドレスをメインで製造されているメーカーもあります。
しかし、それはそれで仕方ない部分でもあり、量産靴メーカーが新しいモデルを製造するのは簡単なことではありません。
木型もそれなりの数が必要だし、メーカーによってはデザインパターンの抜き型、底材の抜き型など、木型が違う新モデルの立ち上げには結構な初期投資が必要になります。
さらに、大きな工場を持っているメーカーは特に、工場を効率よく稼働することでたくさん作って利益を出すという考え方が多いです。「作業効率」ってワードが結構出てきます。
例えばパターンオーダーで付加価値をつけた商品。仮にそれが高単価ですごい高利益率だったとしても、工場の稼働効率を考えると非効率と判断され、生産に対して後ろ向きな意見が出ることが多々あります。
台車に靴を乗せて、ある程度の足数を各工程ごとにまとめて作業する、というような分業制故なのも効率が重視される理由かと思われます。
こんなにも工程が多い靴づくりの量産を可能にしたのは製造方法ですが、逆にPOには向かない製造方法だし、分業制故、作業者が増えることでブランドの世界観が伝言ゲーム的に薄れていくというデメリットが生まれます。
となると余計に、何をユーザーにとってのベネフィットとするの?って話を深堀しないと、埋もれてしまいかねません。
価格設定
あと「高いと売れない」という意見は本当によく聞きます。
革靴は、相場の値段ってのがあって、それを上回ると売れないと判断する。価格で靴を見ている、むしろ価格でしか靴を見ていない、みたいなことが頻繁にあります。
でも買う人はJLを買っているわけで、そこに付加価値を見出せるかどうかってのが商品の価値を決めるはずなのではと考えています。
よく例に挙げられるのは、スタバとドトールの違いとか、リッツカールトンとアパホテルの違いなど。サービスとしては、コーヒーを飲んだり宿泊したりと同じものを提供しているのに、想定している顧客層や提供している価格帯も体験も大きく違います。
ただ足を覆って歩行を補助するための道具を提供するなら、他と同じでしょうけど、それ以外の体験や付加価値を見出していかないと、この価格問題から抜け出すことはできないでしょう。
ちなみに、クラフトマンシップや国産であるということを訴求する例をよく見かけますが、あれがどれくらい刺さっているのか気になるところです。ストーリーが感じられるものなら、そこに感情移入をする人もいるかもしれませんが、ただ作業工程を見せられても…と冷静に捉えています。
人によっては共感する人がいるかもしれませんが、人によってはまったく興味がない人だっているかもしれませんね。
人は物を買っているのではなく、何かを「実現したい」とか「叶えたい」ためにその物を買っているみたいな話をよく聞きます。ひと昔前によく聞いた、モノ消費からコト消費へ、みたいな話ですね。
という意味では、靴を通してお客さんのライフスタイルを豊かにするとか、悩みを解決するとか、そういう付加価値が必要なのかもしれません。それをどう具体的に鮮明に見せていくのかというのが、ブランディングの一部だと考えています。
なのでブランド独自の役割と価値を見出し、発信し、生活者に認知してもらうこと。
これをしなければ「高いと売れない」のは納得です。
独自の役割や価値
世の中に多く認知されている海外の老舗ブランドなんかは、歴史と実績があって、顧客も十分抱えていらっしゃることでしょうが、もしそうでなければブランド独自の役割や価値、ユーザーへのベネフィットを見出す必要があるのではないではないかと考えます。
それはつまり、靴を通して得られる価値や体験にお金を払ってもらうということで、逆に言うと、そもそも靴を通してどんな価値を世の中に提供したいのかというビジョンみたいなものを発信していかなければなりません。
ブランドイメージというのは、世の中や顧客の心の中で醸成されるものですが、ブランドを運営する企業側としては「こういう役割を果たして、こう世の中を豊かにしたいと思ってるんですよ、ウチのブランドは!」と独自のアイデンティティを発信しなければ、世の中にそう思ってもらえないからです。
知覚的な価値
たまたま婦人靴メーカーさんとお話する機会があり、どんなブランドなんですか?と聞くと、「履き心地がよく、トレンドを押さえてるブランドです」と答えがかえってきたことがあります。ハイクオリティ・ロープライスをうたうケースもあります。
でも、他も同じことゆってますから、これってめちゃめちゃハードな戦い方だと思うのです。
じゃあswotでもやればいいのかというと、そういうことでもないと思うので難しい。(多分やるべき
それよりも重要だと思うのは、靴というプロダクトの本質的な価値である、履き心地とか革質とかを訴求するよりも、知覚的な価値を見出すことかと考えます。
わかりやすいところでいうと、本は中を見てみないとその内容が本質的に良いか悪いかわからないわけですが、〇〇が9割というというタイトルがついてるだけで興味が湧く。
あとは何十万とかするワインとかシャンパンも、ブランドネームもあると思いますが、きっと希少性とかパッケージデザインでもってあの価格設定が通用している。
靴も履いたらわかるではなくて、履いてみたくなるような施策、購入すること事態が喜びとなるような施策が必要なのではないでしょうか。
ここで知覚的な価値を高める方法を模索してみます。
靴の場合は、顧客とのタッチポイントとなるSNS、情報収集のために閲覧されるwebサイト、まずはこのあたりで着画を増やしてみるというのがいいんじゃないかと思います。
「この靴を履くと輝く自分」を思い描いてもらうことが一ッ番手っ取り早くてわかりやすいのではないかと考えました。でもそれをやってるところは案外少ない。
あとはwebサイトのデザインとかいろいろあるでしょうし、わ!かっこいいデザイン!って思われることはブランドイメージにつながると思います。本当にやろうと思ったら、いろいろ方法はありますが、とりあえずは「履いてかっこいい」っていう一番ストレートなところで訴求する方がわかりやすいと思います。
着画なら文字読まなくても伝わりますしね。
人はそれほど本質的な価値を見分けることができませんよね。元旦にやってる芸能人格付けチェックがわかりやすい例だと思います。
かわいい店員さんのオシャレなカフェでラップトップを開いて飲むコーヒーはいくら濃くてもなんとなく自己顕示欲を満たしますよね。恐らくコーヒーの味が本質ではないんでしょうね。
最近、webサイト制作のお手伝いをさせていただくことがありまして、事前ヒアリングで頻繁に耳にするのは「この価格でヨーロッパのブランドと同じ革、同じ製法なんです!」という話です。
いやぁ、とてもよくわかります。
きっとあんなに高価な革を使っても、この価格で抑えられるってすごいことですから。そこにはコスト削減に至る多大なご苦労があったはず。あと最近は大手がいい革を独占してますから、有名なタンナーの革は手に入りにくくなったと各所で聞きます。
でも、きっとそれでは生活者にとっての知覚的な価値はそれほど高くなりません。
理由は恐らく、生活者は世の中に出ているブランドであれば品質はある程度高くて当たり前だと思っているからです。
あともうひとつ、どのブランドも往々にして同じことを言っているから。僕個人の感覚としてはこっちの方が理由としてはデカい気もしてます。
最近は減りましたが、先日もこんな質問をいただきました。
「同じ価格帯のあのブランドとそのブランドで、足に合うことを前提とするなら、どちらの方が優れていますか?」という話で、これは今までいただいた質問の中でも数の多いもののひとつです。
ヨーロピアンレザーを使ってます、と言われて「それってお客さんにとってどう良いのか詳しく教えていただけますか?」と聞くと、革の話をしてくださる方もいらっしゃいますが、すごく明確な答えは返ってきません。
ブランドイメージや知覚的価値は、生活者側が持つもの。ブランドの想いやこだわりも大切ですが、あくまで生活者目線で語られるべきだと考えます。
webサイトを作るときって、このあたりの話がすごく重要になります。
このあたりをめちゃめちゃしつこく質問するので嫌がられることも結構あるのですが、とても重要なことだと思ってます。
万人ウケは目指さない
あと、どういう人に靴を売っていくかという話もあります。
20代から60代まで、もしくは若い人から年配の方まで幅広く買ってほしいとおっしゃいますが、それは考えを改めた方がいいかもしれませんという話です。
わかりやすい例でいうと、20代っていっても学生さんもいるかもしれないし、既婚者もいるかもしれません。となると可処分所得も金銭感覚も、時間の使い方もライフスタイルの優先事項も全然違うわけですね。
その全ての人に受け入れられるブランディング、つまり万人ウケするブランディングを目指すと、すごーく平均的なブランドになってしまい、その先には価格競争を強いられるほかありません。
価格を下げて売れるかもしれないし認知度も高まるかもしれませんが、売っても売っても利益が残らないという悪い循環が生まれてしまいます。
そもそもデザインも似てる革靴というプロダクトで、さらに特徴がない商品となると、万人にぼんやりとしか認識されかねません。じゃあ価格下げますか?それでなければ、そのブランドをお客さんが買う理由はなんですか?ということになります。
大手と同じことをやっていては、資金力や認知度、信頼度で負けてしまうということです。
ここは、本当に理解してもらえない部分です。
でも思えばブランドに限らず、世に露出しているもの全て、我々個人も含めて、万人に愛されようというのは無理な話です。好きになってくれる人もいれば、当然嫌われることもありますし、それ以外のほとんどはそもそも自分になんて興味ない、というのがこの世の中です。
であれば、好きになってくれる人だけにマーケティング資源をたっぷり注いで、その人たちにできる限りたくさん喜んでいただけるブランドにしましょう、というのがみんなが幸せになれる選択だと考えます。
また、お客さんの年齢や属性で絞ること以外にも、市場を細分化するというのもありかもしれません。ビジネス用、カジュアル用に大きくは分類されると思いますが、その中でさらに細分化したり、新しい市場を開拓したりするなど、今までとは違った可能性があるかもしれませんね。
散文にお付き合いいただきありがとうございました。
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