昨年11月某日、渋谷のユニオンワークスにてTWTGの石見さんに靴を磨いていただきました。
最近猫を飼い始めたという石見さんのお人柄にたっぷり触れさせていただきましたので、そのあたりもご紹介してまいります。
もちろん靴磨きも!
よければお付き合いください。
石見豪さんについて
10年近くのサラリーマン生活に燃え尽き(ご本人がおっしゃってました)、新しいことをやろうと決めたときに出会ったのが靴磨きだったそうです。洋服もお好きな方なのでテーラーなどもお考えになったそうですが、靴磨きという職業に大阪で出会い、マーケットがどこにあるとか集客方法が全くわからないこの世界なら一生懸命やらざるを得ないのではないかと。
次の日に仕事をお辞めになって、路上の靴磨きを始められたそうです。ご存知の方も多いと思います。
しばらくして出張靴磨きのみにシフト。3年間で約2万足の靴を磨かれました。
あと、うまいこと言わせてもらうと、靴と一緒に靴磨きの腕も磨かれたようです。
その後、縁があって今の大阪店の店舗を借りられる、という流れ。
ほんとは梅田駅の方が人は多いみたいですが、縁を感じられて今のお店にされたそうですね。
1足ずつ考えて磨く
磨いている時は、この靴が一番綺麗に見えるようにと考えて磨かれるそうです。
でもおもしろいのは靴を見た時に、磨き終わりの完成形がはっきりイメージ出来るというところ。
まず靴をみた瞬間に完成形がわかるので必然的にクリームの色とワックスの色も決まっているそうです。なのでそれを目指してやっていくだけ。そういうもんみたいです。
さすがに路上の頃の話は覚えていないけど、今はどんな靴も磨く前と後のイメージにズレがないそうです。
石見さんはこれが極々当たり前のことのようにお話をされていましたが、読んでいただいてる方はいかがですか?そういうもんですか?
プロの方と比較するつもりもありませんが、僕なんか完全に探り探りです。笑
忙しいときとか面倒なときは、お決まりのワックスとクリームで鏡面までを一連の流れと捉えてお手入れをしているようなイメージです。(特に何も考えてません
でも、目指すところがあってそこに近づけていく磨き方って、ワックスやクリームの選び方や使い方にも変化が生まれるような気がしませんか?お話を聞いてて僕はそんなふうに思ったんです。
今日はこうしてみよう → あ、思ったようにならなかったな → じゃあ次はこうしてみよう…みたいな。
例えば僕の靴であれば、このムラがあるから透明感を最大限に出そうとか、この革はこんな革だからこれくらい光らせよう、とかとか。そういうことを事前に考えて磨かれているそうですね。
今までいろんな靴をご覧になったからこそ、その選択肢が多いというのはあると思いますが、石見さんとお話をしているとどうやらそれだけじゃないように思えてくるのです。
他には、どうやったらお客さんが感動してくれるかな?と考えるそうですが、想像を超えたものを提供しないと基本的にお客さんは感動してくれません。
今、世の中的に石見さんの磨きに対するハードルはすごく上がっている状態かと思いますが、それを超えるために例えば「ネルの磨きに入った後は、ワックスと水を一度しかつけないで磨いてみましょうか?」というような提案をしてみる、とか。
そんなチャレンジを課してご自身も楽しみながら磨かれているそうです。
仕事において大切にしていること
石見さん本人が語っていたことをそのまま書きます。
靴磨きというと何を連想されますか?
ほとんどの方は、路上磨きをイメージするそうです。
単純に靴を磨くことだけを考えるのなら、服装はTシャツで、道具と箱、技術があれば良いです。
ですが、注目してもらいやすい環境を整えた方がお客様には来店したいと思ってもらえますよね?まず知ってもらうには、分かりやすい差別化が効果的でした。
技術だけを売りにすると技術を知ってもらうまでに途方もない時間がかかります。
だから創業店は有形文化財に出しました。
そして内装や装飾品、身につける靴や服、店内でかかっている音楽や発信する情報に拘りました。
しっかりと考えて作り込みをすると、凄い拘りだな、下手なはずがない、一度磨いてもらおうかなと、お客様の背中を少し押してくれる状況や面白いと媒体取材が入りやすい環境が作れます。
極端にいうとハードロックがかかっていて、革ジャンを着てリーゼントの店員だったら、お客様も同じ趣味趣向の方が来ます。
センスの良い音楽がかかり、店員がビスポークスーツを着て、一流の靴を履いていたらお客様も同じ趣味趣向の方に偏ります。
もしくは、それに憧れをもった人にとって特別な店となり得ます。
仕事の技術においても、やはり突き詰めて漏れなく考えて熟練させていく事が大切です。
きちんと考えて、目標を立てて、しっかり準備を行い達成することを大切にしています。
TWTGのオリジナルブラシも良い例です。
持ち手を黒漆にして金の動物を描いたり箱のデザイン等を伝えても本人以外完成イメージがないので、そこまでの労力、時間、お金をかけて意味がない「売れるのか?」って全員に言われました。
ですが、完成品を見た全員が欲しいといいました。
「どうやったら勝てるかな」
選手権大会のトロフィー
第一回の靴磨き日本選手権大会のときに、石見さんがブートブラックのハイシャインベースを使われていたのは有名な話ですが、それも大会で使用できる全ての道具を取り揃えて、全部を研究しつくして、さらに大会当日で磨くスコッチグレインのクリーム入ってない靴を購入されて臨まれていますよね。
20分間でフルケアをされたのもちゃんと理由があって、Brift Hで行われた事前の予選に通過したのは当日試合をされた12名中たったの4名。
それ以外は各企業からの推薦枠だったので、完全に不利な戦いでした。
だからこそフルケアというパフォーマンス(言い方がふさわしいかわかりませんが)をすることで、圧倒的な技術の差を見せるという作戦だったわけです。
だって光らせることだけを競うのであれば、いきなりワックスを塗り始めた方が効率はいいはずですからね。
さっきの話にも通じてるところがあると思いますが、常に目指すところがしっかり見えていて、そこにたどり着くためにはどうすればいいかということを考えてひとつひとつの選択をされています。
ご本人は至って普通とおっしゃいますが、僕からするとすごくおもしろいお話ばかりでした。
靴の仕上がり
そんなお話をいろいろと聞いているうちにベースを乗せ終わって、いよいよネルに入るというタイミング。
ネルに入ってからはワックスも水もほとんど足さずに磨きあげてもらいました。
透明感って言葉ぴったりですほんとに。
シューツリーがあったら倍の速さで磨けますよと落ち着いた口調でおっしゃってました。(たまたまツリーのサイズがありませんでした
やはりワックスのベースが重要。ベースが命とおっしゃいます。
さらにベースを指で塗る段階で、重ねたワックスの状態もわかるし、指先の感触で光るかどうかがわかるそうですね。
ネルに入ってからの追いワックスはしない。
エアワックスの図。(ワックスをつけているフリ
石見さんはテレビや雑誌などいろんなメディアにすでに出られているので、靴に関係ない話をたくさんききたかったんです。
というのは磨きのテクニックだけを見るのではなくて、その人のバックボーンを知りたいと思ったから。
石見さんのバックボーンとかお人柄がこの磨きにどう結びついているのか、そういうことに興味がありました。
ちなみにですが、薄い色の靴の方がワックス量が必要になるそうです。ワックスは薄く仕上げていらっしゃるので、鏡面のもちもよいそうです。
あと、実は結構力を込めて磨かれてるんです。石見さんは右腕の方が7cm太いみたいです。
7cmって結構ですね!腕触らせてもらいましたけど、ガッチガチでした。笑
TWTG渋谷店
初めての方はちょっとわかりにくいかもしれませんが、建物の地下1階にお店があります。
すごく昔に一度だけお邪魔したことがありましたが、それいらいだったのでここでよかったのかな?って不安になりました。
インターホン鳴らしたら建物の扉をあけてもらえるのでご安心ください。
現在、平日は対面磨きも対応してくださいますので、是非お店にも足を運んでみてください。
また、TWTGのオリジナルグッズも展開されていくようですのでそちらにもご期待ください。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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