世の中には革靴を表現するために使われる言葉がいくつかあって、それは例えば見た目を表す形容詞だったり、靴のスタイルの種類だったり、その靴の背景や歴史を表すものだったりする。しかし中には「佇まい」とか「存在感」みたいな非常に抽象的な言葉もあって、それを具体化することにいつも腐心する。
文章を書くときにどう表現したらこの靴が魅力的に伝わるだろうかと考えるけど、どうやら僕は右脳人間のようで靴を見てワクワクする感覚を言葉にするのがすごく難しい。
そんな形容するのが難しい、できるなら「佇まい」という言葉で片付けたい靴のひとつが、まさしくこれだ。
ゴリゴリ靴シリーズ第一弾。
今回の革靴
Brand : JOE WORKS
Design : Full Saddle Loafers
Last : #1
Size : 5
Leather : Elephant
Sole : Leather Sole
革の模様は動物が生きた証
自分でオーダーしておいてなんだが、洋服との合わせにくさは星三つ。しかし、この靴は机の上に置いてしばらく眺めていられるほど好きだ。カメラを構えていろんな角度から写真撮っちゃうくらい本当に好き。
ドレスの木型とドレスのデザインに乗ったこのゴワゴワ感はミスマッチのようだが、カーフの綺麗なドレスシューズは世の中にたくさんあるし、せっかくオーダーするのであれば少々変わった組み合わせにも挑戦したい。いろんな選択肢を目の前に、ああでもないこうでもないと組み合わせを考えるのが僕の密かな楽しみだったりする。
確かオーダーするときゾウの革ありますよとご案内いただき「ゾウで作りたい!」とビビッときたのがきっかけで、じゃあデザインは装飾が少ないもので、紐靴よりはローファーかなぁという選択はやはり妥当だったと思うけれど、完成したこの靴を目の当たりにするとそんなことはどうでもよく、ただただこの独特の模様が放つ存在感に圧倒される。
普段スムースレザーではあまり感じることはない、生物の遺伝子が形成したこの有機的な構造。規則性があるようでない大胆な深いシワによって、この革が死後もゾウという人間よりもずっと大きな生物であったことを想像させる。たまにバーニャカウダを注文すると入っているロマネスコという野菜のような幾何学的な模様を見て生命って不思議だなぁと思うけど、この肌目もなかなかである。
そんな大きな生物から生まれたゴワゴワとした革が小さなローファーになっても尚、こんなにも強い印象が残るのだからますます不思議だ。
そういえば、爬虫類系の革やエイの革なんかもギラギラ感があるし、シュリンクや型押しなどのシボ革もスムースレザーとは違った独特の質感がある。しかし、ゾウの場合は圧倒的な生命力というか、サバンナの過酷な環境で生活するに耐え得る「強さ」みたいなものを革表面から感じる。
最初はサドルの部分にだけゾウの革にするというアイデアもあり、それはそれで靴として綺麗にまとまったかもしれないが、全部ゾウの革にしたからこそ感じられる生命力とか強さだ。
色が抜けて落ち着いた雰囲気に
さて、洋服との合わせにくさは星三つと申し上げたが、実は案外そうでもないと思っている。
補色をせずケアを続けてきたので、新品のときよりも色が抜けてかなり落ち着いた雰囲気になった。新品のころは絵本に出てくる無邪気な子どものゾウだったのが、今では落ち着きのある、それでいてしたたかな「大人のゾウ」という感じ。雰囲気は落ち着いたけど、光の当たり具合でこんなにもザラザラとした質感が浮かび上がるのがしたたかさをに拍車をかける。
革の色が濃くなり、ソールや履き口の色との一体感も出た。
新品の子ゾウ
もちろんジーンズでも履けるし、ドレスな木型とデザインに乗っているので同系色ならトラウザーズでも成立する。柄の入った洋服をほとんど選ばないので、靴がこれくらい強くても問題はないと思っている。
案外革は柔らかく弾力があるので履きやすさもあり、気負わず気楽に履ける革だったりする。
ゾウの革は弾力や柔らかさがありスムースレザーとは違った扱いにくさがあるのではないかと予想するが、厄介なオーダーにもかかわらず違和感なくとても綺麗に仕上げていただいたジョーワークスさんはさすがとしか言いようがない。
オーダーするときはすごく親身に相談に乗って僕のまとまらない話を受け止めてくださって感謝している。
いつかまた変な靴をオーダーしたい。
乗せないケア
こういうゴツゴツとした革はクリーナーを行き渡らせるのが難しいので、過度に成分を乗せない乳化性やデリクリでケアをするのが楽そうだ。
とはいえもともと柔らかいのでオイルも入れることなく、いままではブートブラックのリッチモイスチャー一択だったが、最近はこちらの記事で書かせていただいた斗谷氏に調色していただいたグレーのクリームを塗って、馬毛で馴染ませるだけの超お手軽ケアで済ます。
濃い色の革は明るい染料を入れても明るく染まることはないらしいけど、まぁそれでもいいじゃないか。
カジュアルな履物ではあるがあくまでドレス感を保ったまま履きたいので、毛羽立ったコバだけはしっかり整えようと思う。
靴好きではない人に「靴かっこいいですね」と言われた数少ない靴のひとつ。
そして2回言われたのは唯一この靴だけだったりする。
下手に説明なんかなくても良いものは良いし、万人でなくても共感してくれる人は必ずいる。この靴は決して正統派なドレスシューズではないかもしれないが、見る人に何かを感じさせる力がある。
これだから革靴はやめられない。

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