足の構造から木型を設計する義肢装具士・野口達也さんのオーダーシューズ

靴を作る上での土台となるのが木型(靴型)で、靴の形も靴の履き心地も木型によって決まると言っても過言ではありません。
そんな木型を解剖学や人間工学の観点から木型制作をされ、義肢装具士としてお仕事をされている野口 達也さん@LIGHTBULBbyNに、木型についてお話を伺いました。



義肢装具士さんとは

まずは義肢装具士さんというお仕事について。
義肢装具士は国家資格のひとつで法律上このように定められています。

医師の指示の下に、義肢及び装具の装着部位の採型並びに義肢及び装具の製作及び身体への適合を行うことを業とする者
公益社団法人日本義肢装具士協会

つまり足が痛い方や歩くのが困難な方のために、装具や整形靴(足の問題を解決する医療目的の靴)の作成や適合を行う医療従事者さんです。足だけでなく義手なども義肢の範囲に含まれます。

解剖学や人間工学の観点からと申し上げましたが、足の構造を理解して設計をされているというところがすごいところ。
野口さんはもともと靴業界にお勤めで、ずっと木型というものに興味をお持ちだったのですが20年前はよくわからず、ご自身で整形靴を学んだり国家資格を取得されたりして、現在はお仕事以外でもご自身の木型を削られたりもしています。
以前こちらの記事でご紹介した、スマホで足を撮影したデータを元に3D木型を出力して、オーダー靴を作る Shoe-Craft-Terminal というサービスの木型を設計されたのも野口さんです。

木型の良し悪し

ねじれている!!

店頭で試着をしたときにいくらフィット感が良くても、しばらく履いてみるとイメージと違ったとか、歩くと痛いとか、なかなか足入れ時のファーストインプレッションだけで正解が判断できないのが革靴の難しさです。
我々素人にとって、その難しさのひとつの要因になっているのが木型という存在でもあります。

ーー 早速ですが、野口さん。野口さんの木型はどうやって考えに基づいて設計されているのでしょうか?

野口さん:基本的に靴木型は、靴を作る上での作業台であり靴の形を決めるただの型です。でも木型によって、痛い痛くない、歩きやすい歩きにくいって履き心地に違いが出ますよね。
それは木型形状や素材、製法など外的要因が足に対して適切か否かなんですが、ドレスシューズの場合、履き心地に影響を与える外的要因の中で1番影響が大きいのが木型形状です。
僕は、三原康裕さんに影響を受けて靴を作り始めたんですが、たしか三原さんが言っていた’’First is last’’という言葉を覚えてます。まさにこの言葉通り、初めに木型ありき、そしてデザイン、型紙や素材、製法が活きていくと考えてます。
だから僕なりの設計としては、足の大きさの計測値や解剖学的な足部形状だけではなく、足の動き、アライメント、個人差や左右差など機能性についても検査、評価をして木型の設計をしてます。
なぜなら僕は人間の身体は自然そのものだし美しいものだと考えてるからです。顔や体型と同じように足も個性がありますが、それぞれに美しいと思います。その足の美しさや、足の本来の役割をドレスシューズで表現したいです。
だから靴自体を過剰に装飾的にしたり、ただ靴の造形としての美しい形を目指すのではなく、今のところは僕なりの表現を追求しています。

***

特に整形靴のようなものであれば、足の問題を解決するために作られる靴なので、その人が履きやすいとか痛くないということが求められます。整形靴でなくても、一般の人にとっては足に合うかどうかができあがった靴の良し悪しを判断するひとつの要因であると言えます。
しかし、靴の難しいところは素材や製法によっても履き心地が変わることが往々にしてあり得るので、足に合わない、もしくは履き心地が悪いのが悪い木型ではない。また、ドレスシューズにおいては足に合っていて履き心地のすごく良い靴だったとしても、それが美しい靴でないと靴としては100点ではない、と野口さんはおっしゃいます。

ーー 足に合うとはどういうことなのか、野口さんのお考えを教えてください!

野口さん:“足に合う”は感覚的な領域が入ってくるので個人差も大きく、言葉で説明するのはけっこう難しいです。
履く人が何をもって“合っている”と判断しているかは、見ただけでは分かりません。けど、当然足に合ってるって感じてくれないとダメなので、まずお話を聞いて主観的な情報を集めます。お悩みや足、靴で困ったことがあるのかどうか、どう感じてるか、どうしたいか、です。
その後、足の検査を行って客観的な情報を集めて両方を併せて足の状態を評価していきます。履く人の主観だけでなく、なぜそう感じているかを客観的に分析するためです。

客観的に考慮するのはサイズや形状だけでなく機能的にもです。
人間の足って人種や世代を通して殆ど同じ構造なんですが、年齢、人種、生活習慣や感覚の違い、既往歴などで足に個人差や左右差が出ます。
歩行運動の時には、足部がなるべくこう動いた方が良いといういわば理想的な動き方があります。そこから逸脱した動きや状態があれば、それを矯正した方が良いのかしない方がいいのか、矯正出来るのか出来ないのか、足の検査を基に評価、判断し設計に取り入れています。
当たり前かも知れませんが、こうやって主観だけでなく客観的にも足に合うようにアプローチしています。

***

単純に足の形をそのまま木型にするというわけではなく、その人の悩みや好み(主観)と、足は本来はこう動くべきという解剖学に加えて、その足を健康で快適に保つためのサポート(客観)とを組み合わせて木型を設計されているということです。
申し上げた通り、僕は足を入れたときのフィット感や底やカウンターのサポート感、あと補足情報としての製法…その程度しか履き心地を判断する材料はないのですが、歩行や足の動きを理解した上で木型を設計できるのはやはり、義肢装具士さんであり解剖学も熟知されている野口さんのアドバンテージかと思います。

野口さんにお話をお聞きできたら、足に合う、もしくは足に適した木型の靴選びができるのでは、という安易な考えで臨んだインタビューでしたが、ますます難しい。(というか野口さんの木型の靴、履いてみたい…

しかし、少しでもそこに近づくためには、まず各々が自分自身の足について知ること。
普段履いている靴の履き心地、歩き心地に少しでも意識を向けてみること。感性と同じように、時間と経験を費やして培っていくしかないものなのかもしれない。そんな風に思いました。
それに対して野口さんは、足の性質や履くシーンを踏まえた、正しい靴の履き方を多くの人に知ってもらうのが目標でもあるとおっしゃいます。

足の機能性に合わせた靴選び

ーー 正しい靴の履き方を広めていきたいというのは、具体的にどういうことでしょうか?

野口さん:仕事上、足や靴について相談に乗ることが多いんですが、履き物としてサイズの次に大事なのは足の機能性に合わせた靴の選び方です。
人が生きる上で足の役割として重心の移動、つまり歩行運動が欠かせないわけですが、足の機能性が落ちている人は歩行運動を靴やインソールなどで補う必要があります。

なので、例えばアーチが崩れやすい扁平足気味の人に対して上履きのような支持性の乏しい靴は長時間の外出には合わないですから、使う時間をある程度限定し、短時間での外出やあまり歩かない自動車、自転車での外出時を主な用途にするようお願いしています。

また踏み返しの関節の動きが悪い方は、トゥスプリングやロッカーソール(※)の靴を。ハイアーチで衝撃吸収が苦手な足タイプの人にはクッション性が高い靴を。など、足の機能性に合わせた靴選びをお勧めしてます。

※ロッカーソール:歩行時の前後の体重移動のしやすいよう丸みがある靴底。

***

ーー 好みもあると思いますが、満足度の高い靴選びをしようと思ったら、プロの方にお願いするのがよいのでしょうか?

野口さん:もちろんプロが選んだら失敗は少ないと思います。でもプロといっても好みやクセ、相性なんかもあると思うので、自分の好みを大事に選ぶのも忘れちゃだめだと思います。やっぱり自分で決めた靴って愛着あるし、例え上手くいかなくってもそれが経験になるはずです。

とはいえ痛みやタコがある方は、プロの意見もしっかり聞いて選んでみて下さい。相性のいいお店や人、ブランドなんかが分かると良いですよね。
あと既製品がそのまま足に合うのが難しい方もいらっしゃるので、足に合わせて調整してくれるとこがあったらサイコーです。中々そういうお店少ないと思いますが、足や靴で困ってる方がいたら健康靴とかのワードでweb検索してみると良いと思います。

オーダー木型・オーダーシューズ

Shoe-Craft-Terminal のサービス一環で、オーダー木型の制作もされています。
持ち込み木型をベースにカスタム木型を作るというもので、次のようなメリットがあります。

  • 木型の寸法は左右別々に設定可能
  • 自由度の高い修正が可能

このサービス、実は木型を作ることだけが目的なのではなく、遠隔からもオーダーシューズの受注ができるということが一番の特徴です。
先日こちらの記事でご紹介させていただいた靴職人・外林 洋和さんと共同で、進められているプロジェクトで、こちらの靴もそのサンプル。アッパーは野口さんが作られたものです。

え、野口さんアッパーも作れるんですか!?

ちなみに、木型を削ってるだけでは靴全体の設計はできないので、木型を設計するためには靴を作れないとダメなのだそうです。なにで、型紙も切れて、アッパーの縫製も底付けも一通りできる方でもあります。
また紳士靴、婦人靴、量産靴、フルハンドって全部設計概念が違い、1番最後に覚えるのが木型。もちろん各工程でプロ並みって訳にはいかないので、細かいところは専門にやってる職人と相談しながら決められているそうです。

***

ーー 今後デザインやオーダーの方法など、どう展開される予定でしょうか

野口さん:まだこれからというとこなんですが、僕が元々やっていたブランドに外林さんが加入していただく形でオーダーを再開させていただくことになりました。
コンセプトは“変化”です。

前述しましたが、僕は足は美しいと考えてますし、ドレスシューズで新しい表現を追求したいと思ってます。そのためギリギリまで余分なディテールは削ってシンプルでトラディショナルな作り方をスタイルとしてます。その方が木型の形状が活かせるからです。

ただ足の計測や検査方法、木型の設計では伝統的ではなく、スマホでの計測を行ったり医学的な検査手法を取り入れたり、自分の知見やアイデアなど新しいやり方を積極的に採用して履く人の革靴に対するイメージが大きく変わるような靴を目指してます。
やっぱり革靴って制約がある分、潔くていいと思いますし、めちゃくちゃかっこよくて履く人のテンションが上がるような美しい靴が作りたいです。やっぱり主役は靴ではなく、足であり履く人です。

沢山の受注にお答えするのはまだ難しいので、SNSなどを通して発信していきながら直接ご連絡いただくやり方で受注していこうと思ってます。
今後は展示受注会などもやりたいと思ってますが、最初は1足1足受注を重ねることを重視したいですね。
オーダーは30万円〜
ご希望の方はこちらのアドレス(lightbulb.shoes.official@gmail.com)へご連絡ください。

***

やはりビスポークなので高額ではありますが、お店にいかなくてもオーダーができるというのが、この仕組みの良いところです。やはり木型制作も靴作りも遠隔でという従来の靴作りとは違った靴作りを展開されています。コンセプト通り”変化”を感じるサービスです。

最後に

木型制作やこういったオーダーシューズは、解剖学や人間工学の知識、義肢装具士としてのキャリアも活かしながらのご活動ですが、その中にも「主役は足であり履く人」とか「足も個性があって美しい」という野口さんの感性が垣間見れます。
足に合っているから100点ではない、美しくないとダメというのは、ドレスシューズの難しさをロマンに変えてくれる言葉です。この靴を見たら納得です。確かにこの靴は美しい。

野口さん、外林さんの今後のご活動はSNSで。

twitter:@LIGHTBULBbyN

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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『革靴の魅力や靴磨きの楽しさをもっと多くの人に知ってほしい』という想いでブログやYouTubeで情報発信を行っています。 前職の経験からシューメーカーのブランドサイトやオンラインショップの制作・カスタマイズ、広告運用を受け持ったり、ブランディングや商品開発のコンサルなども手がけています。
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