この1ヶ月、革靴に関するニュースやメルマガを追いかけていて気づいたことがありました。
いろんなところから届くニュースの多くが似た内容を発信してるぞ、と。
キーワードは「薄底」。
プラダもフェンディも薄底スニーカーを発表し、来季のランウェイ総括にも「ロープロファイル*」の文字が並んでいました。
*Low profile:薄型の意。靴においては、薄底の構造を表す言葉として使われる。
ただ、集めたニュースを並べ直してみると、本質は底の薄さではないような気がしてきました。
「楽なのに、きちんと見える」という需要。今、靴の世界で起きているのは、これを求める流れなのではないか…。
今回はそんな見た目と履き心地のトレンドについて、整理していきます。
この1ヶ月で起きていたこと
まず、7月上旬から中旬にかけて、実際に観測できた事実をざっくり時系列で並べます。
- フェンディが26年秋冬コレクションで「折りたためる薄底スニーカー」を発表(ファッションプレス)
- TBS「THE TIME」が、ハイブリッド靴「スニーファー」を特集。靴底がスニーカーで、上部のデザインがローファーになっている靴のことで、有名シューズブランドも続々販売しているとのこと
- アメリカ発ROCKPORTより、「雨の日も履き替えない通勤」を掲げる防水シューズ「QUINCY URBAN LOAFER」が登場。「見た目は革靴の端正さを保ちながら、履き心地はスニーカーのような軽やかさ」と紹介
- PRESIDENT Onlineが「ビジネスマンの革靴離れ」を特集。「痛いし疲れる履物」を脱いだ大人たちの受け皿として、きちんと見えるビジネススニーカーを挙げる
- プラダが26年秋冬メンズで「ユーズド風レザーの薄底スニーカー」を発表(ファッションプレス)
- レディースですが、ユナイテッドアローズの靴ブランド「SY」のバレエシューズが好調で、他国でも人気に(fashionsnap)
- fashionsnapの2027年春夏メンズトレンド総括で、シューズのキーワードとして「ロープロファイル(薄底)とつま先のアクセント」が挙げられる
テレビ、ビジネス誌、実用メディア、ラグジュアリー、ランウェイ。別々の場所で語られていることを一言にまとめると、「楽」と「キレイ見え」を両立した靴が求められている、ということになりそうです。
中でも薄底のシルエットは、その流れが見た目に現れたひとつの形だと僕は解釈しています。
そしてこれは単発の流行ではなく、しばらく続く流れとして見てよさそうな勢いです。
スニーカーも革靴も、それぞれ両側から
この潮流は、よく見ると2つの方向から進んでいるようです
スニーカー側は「薄く、上品」になっていて、プラダのユーズド風レザー、各メディアの「革靴代わりに履けるレザースニーカー」特集。
ボリュームのあるダッドスニーカーの時代が落ち着きつつある、というのがひとつ。
そして革靴側からも、伝統的な製法でクラシックな仕様・デザインというよりは、「軽く柔らかく」というコンセプトのものが増えつつある、という流れ。
見た目的な薄さだけでなく、ラバーの機能やクッション性みたいなところも言及されています。
実際、海外でも日本でも、ドレスニ(ドレススニーカー)の需要も高まっている模様。
このあたりは、僕が毎週読んでいる欧州ブランドのメルマガにしっかり現れています。ロンドンのBaudoin & Langeは、看板モデルStrideをこう説明しています。
“Crafted in supple suede and finished with the Stride’s lightweight sole, it delivers the comfort of a sneaker through the lens of a loafer.”
しなやかなスエードにStrideの軽量ソールを合わせ、ローファーの形を通してスニーカーの快適さを届ける
さらに今週は、ジョン・ロブまでもが「軽やかに楽しむ夏のソフトローファー」という日本語メルマガを配信しました。英国最高峰のドレスシューズブランドが「軽やか」「ソフト」を訴求する時代です。
一部のスニーカーは革靴のような見た目を意識し、革靴も同様に一部のものは軽く履きやすくという流れになってます。
両者とも共通して、昨今のファッションやリアルなライフスタイルという文脈の中に、「品のあるけど、軽くて柔らかい靴」というトレンドがあるようです。
革靴側にいる人間としてはドレススニーカーという言葉に馴染みがありましたが、「スニーファー」という言葉はちょっとびっくりでした。笑
とにかく、このハイブリッド感満載のネーミングは、昨今のファッショントレンドという側面と履き物という道具としての側面、それぞれにおける潮流を体現しているものだと思います。
見た目と機能
なぜ、今その流れなのか。背景は2つあると考えています。
①ドレスコードの溶解
そもそもスーツとスニーカーが共存する時代だし、「ドレス靴」「カジュアル靴」という単純な2枠で分けるというのも違う気がしています。境界線そのものが薄れてきてるという印象です。
1足でどちらもこなせる靴が求められるのは自然な流れだし、むしろドレスからカジュアルまでのグラデーションが今まで以上にフォーカスされている気がします。
あとは、2017年頃から続いたゴツめのチャンキーソールの時代が一巡し、ファッショントレンドも「薄く・細く」という方向へ戻りつつある、なんて話も聞いたことがあります。
②「我慢」への回答
革靴離れの理由のひとつにある「痛い・疲れる」という履き心地の問題。
これに関して思うことは多々ありますが、僕の意見は置いといて…やはりまだまだきちんと見られたいシーンやオケージョンは存在するので、そんなときに「見た目のために我慢する」でもなければ、「快適さのために見た目を諦める」でもない第3の選択肢、それが今の流れです。
7月頭にはPRESIDENT Onlineが「ビジネスマンの革靴離れ」を特集していました。「痛い・疲れる」から脱ぎたい、でもきちんと見られたい。薄底のローファーやレザースニーカーは、この矛盾した需要への回答になっています。
オンとオフのグラデーション
例えば、オン寄りのオフ、オフ寄りのオンみたいな「グラデーション」を今まで以上に楽しめるようになったという見方もできると思います。そういう靴は実際増えましたので。
素材や靴の仕様でオンとオフだけではない、中間の微妙なニュアンスを表現して楽しめる。そんな発信をしているブランドが増えたり、そんな楽しみ方をしてるユーザーもいます。
道具としての革靴という文脈だけでなく、「凝ったファッションアイテム」としても革靴を楽しむ人が増えているような印象です。
育てる前提が変わりつつある
ここが、革靴好きとして一番考えさせられたところです。
クラシックな靴の世界には、「靴は馴染ませて育てるもの」という前提がありました。最初は硬い。馴染むまで、沈み込むまで我慢する。ときには足に絆創膏を貼りながらクリームを塗り込んで馴染ませ、数ヶ月後に自分の足の形になる。その過程も含めて革靴の楽しみだ、という前提です。
いま起きている流れは、この前提の外側にあります。
初日から楽で、キレイ見えする。これで十分。
だって多くの人は、そもそも育てるプロセスなんか求めてないわけですよね。これを「革靴文化の衰退」と読むこともできるかもしれませんし、そもそもその前提すらは浸透していなかったのかもしれません。
でも実は、「薄くて軽い上質な靴」は靴の歴史に昔からある系譜でした。
ベルギー発祥のベルジャンシューズ。ライニングを省いたアンラインドローファー。イタリアのドライビングシューズや、モカシンなど中底を使わない製法。
どれも「軽く、柔らかく、でも品がある」ことを何十年も追求してきた靴たちです。
Baudoin & Lange は、まさにベルジャンシューズの現代版として生まれたブランドですし、ジョンロブのソフトローファーも突然の発明ではなく、この系譜の延長にあるのではないか。
最新トレンドに見る「楽だけどキレイ見えする靴」は、極端に言えば歴史の繰り返し。
「育てる楽しみ」と「最初から楽」は、対立するものではなく、昔から存在していたというか、独立して存在してきた2つの価値なのだと思います。
だからこそ、クラシック靴好きにとってこの潮流は「スニーカーに押される話」ではなく、むしろ靴好きが愛してきた靴の価値が再発見される追い風なんだと思いたいですよね。
参照: TBS「THE TIME,」スニーファー特集、PRESIDENT Online、ファッションプレス(フェンディ26AW・プラダ26AWメンズ)、fashionsnap(2027SSメンズトレンド)、Baudoin & Lange・John Lobb 各メルマガ(2026年6〜7月配信)





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