こちらの靴。
甲の高さがグッと抑えられていて少しトゥスプリングが効いていて、つま先先端の角度もかなりシャープです。かかとからつま先にかけて描かれたサイドの緩やかな曲線も美しい。曲線はこんなにも立体的な丸みがあって美しいのに、靴そのものの印象はすごくシャープです。
つま先も鋭角なチゼルで、令和時代に発表された最新鋭の新幹線よりも攻めたトゥシェイプです。甲の抑え込みも際立ちます。ソールのコバもチゼルに合わせたスクエアではなく、一工夫施されています。
かかとから積み上げ(ヒール)へのラインの繋ぎ方も秀逸です。
これ、全部手作業です。一応靴を作る工程を一通り知っている身として言えることは、超絶大変だということ。
さらにすごいのは、かかとから積み上げの繋ぎ方はどの角度から見ても滑らかだということ。
ソールのコバとヒールの繋ぎ目にも段差がありますが、これも高級紳士靴に見られる贅沢仕様のひとつですね。
今までの靴の『当たり前』を覆すような、そんな圧倒的な世界感がありました。
とにかく迫力がすごい。
僕はこの夏、『マイナス』という言葉で表現されるこの甲の抑え込みが効いた、靴職人・和泉澤 良(いずみさわ りょう)さんのサンダルに一目惚れをいたしました。
靴職人・和泉澤 良さん
和泉澤 良さんについて。
茨城県守谷市の靴職人さんです。もともとはレディースの靴メーカーでのご経験を経て、2009年から土谷 聡さんのもとでお手伝いをされてハンドソーンを習得。その後独立をされ、今は靴製作のお仕事や靴教室、オーダーなどをされています。
2017年にオリジナルブランド Ryo Izumisawa Handmade Shoes 設立され、オーダー靴のお値段は下記の通りです。
納期は 2~3ヶ月です。
オーダーシューズ | 117,000円〜 |
修正 + 仮縫い | 18,000円 |
こちらはラクダの革を使ったジョッパーブーツですが、なかなか目にすることのないラクダの革であることを忘れさせるほど、美しいシルエットに目を奪われます。かかとがやや高めで角度がついているのもこのシルエットを引き立てる要因になっているように思います。
こちらもやはり甲の高さが抑えられていて、つま先周りが特徴的。
内側。見る角度によってはマイナスも効いています。
土踏まず中央から伸びている縫い目の線とストラップの線のつながり方も綺麗ですね。こういうところたまらなく好き。
履き口のまわりの形も華やかです。僕ブーツのことそんな詳しくないんですが、上のベルトと下のベルトで太さが違うのって普通なんですか?
靴のサンプルがあまりないとおっしゃっていましたが、今思えば理由もわかります。作ろうとしているデザインが特殊すぎるのです。笑
左はシームレスのホールカット。紐すらない木型と吊り込みに全てを注いだデザインです。完成したものを見たかった。
右は外羽根のロングウイングのモデルですが、ロングウイングのパーツも継ぎ目のない一枚の革です。パターンが作れないと仰っていましたが、じゃあどうやって作ったんですか?笑
見せていただいた靴はそれほど多くありませんでしが、とにかく和泉澤さんの作品をもっと見たい!と思わせられる、そんな魅力がありました。
サンダル
一目惚れをしたのはこちらの靴でございます。
こちらはレディースの木型で作られたもので、グルカサンダルっぽく作ったけどグルカではないとのこと。
もはや名前なんて何でもいい。とにかくこの靴が欲しい。
こちらの靴も『マイナス』が効いてます。
こちらは2019年の靴磨き選手権大会のカラリング部門のチャンピオン・斗谷 諒さんが作った革で、革本来の血筋やシワを存分に活かした仕上げが特徴です。ご覧の通り、自然な模様が甲の部分に出ていますね。こちらの革の記事もまた後日アップさせていただきます。
和泉澤さんご本人も同じサンダルを履かれてました。こちらもラクダの革で赤く染めたもの。多少改良が必要とのことですが、めちゃめちゃかっこいい。
木型
木型にも工夫がこらされています。
写真と文字だけだと詳しく説明するのが難しいのですが、簡単にお伝えすると歩くときのことも考慮されている木型です。先ほどの『マイナス』も歩行を考慮された木型故。
あれは手作業で吊り込みをしないと実現が難しい形であるというのは想像に難くありません。吊り込みにはそれほど時間はかからないとおっしゃいますが、どこをどう引っ張ればいいかという経験と職人業が物を言う世界です。
細かいところですが、木型の底面の面を取っていて、アッパーの際(きわ)を丸くするような設計になっています。また中底もその丸みを際立たせるような加工がされていて、最初にご覧いただいた立体感と曲線の際立つ靴を実現されているようです。
和泉澤さんは、ロベルト・ウゴリーニ氏(イタリアの靴職人)にも憧れていらっしゃるようで、ウゴリーニ氏と言えば木型が有名ですが、それ以外にもエッジの立った木型でもシボ革をうまく使ったり、革の切り返しが巧みだったりするようです。そのあたりの話や他のブランドの靴についても楽しくお話してくださいました。
とにかく、話の節々で「もっと良くしたい」という和泉澤さんのご自身の作品に対する欲求を感じます。実際に、もっとこうしたくて木型を削り直したとか、試作品ももっとこんな風に作り直したいとか、そんな話が多かった印象です。
凝った仕様を実現するために工具を作ってしまうほど、ご自身の作品に対するこだわりが強く、優しいお人柄の方ですが、ご謙遜だけではない向上心に溢れた方だと感じました。
でも実際にその欲求はすでに和泉澤さんの作品に表れていて、どれも圧倒的な迫力を放っている靴ばかりです。
よくあるストレートチップのような靴も作られると聞いて安心しましたが、そう言った定番のデザインであっても、きっとご自身の強いこだわりを感じられるような存在感のある靴になるのではないかと思うと、それも是非見てみたい欲求に駆られます。
気になった方は和泉澤さんのインスタをフォローされるとよいと思います。文章考えるのに1時間かかってやめちゃうって仰ってたので、あまり更新されないかもしれませんが。笑
サンダルをオーダー
あのサンダルの写真を見せていただいたときにその迫力に圧倒され、この靴を夏に履きたい!と思ったのでした。
なので、もしお会いできたらオーダーすると決めていて、今回それがようやく叶いました。
足の計測をしていただいて、キツめのサイズが好きだという僕の好みをお伝えすると、工房にあったレディースの23.5cmの木型でいけそうだということがわかりました。
また、一応レディースとメンズだと若干つま先の形も違うので、メンズ用の木型でお願いすることに。
左:レディース / 右:メンズ
靴教室
ご自身の工房では靴教室も開催されています。
パンプスも短靴もブーツも作れます。詳しくは和泉澤さんのwebサイトをご覧ください。
最後に
これからサンプルを増やしたいと仰っていたのですが、10年以上のキャリアをお持ちでもこれからもどんどんご自身のこだわりの純度を高め、アップデートされた作品を生み出していかれるのだと思います。
すでにこれだけ存在感のある作品を生み出しても尚、「もっと良くしたい」を追求されるその姿勢を追っていきたい。
そんな風に思いました。
とにかく僕はあのサンダルが楽しみで「是非今年の夏に履きたいです!」という不躾なお願いを冗談ぽくお伝えしてきましたが、これ結構本気です。笑
都内からだとちょっと遠いのでなかなか気軽にお邪魔できる距離ではありませんが、首を長くしてインスタの更新を楽しみにしながらサンダルを待ちたいと思います!(しつこい
最後までお付き合いいただきありがとうございました。

COMMENTS コメントを投稿する