革靴を『仕立てる』製甲職人・康 澤民さん

 

康 澤民(こう さわみ)さん。
ビスポークメーカーのアッパーメイキングをされている製甲職人さんです。

 

もともとはメーカーにお勤めで営業をされていたのですが、退職後に浅草の職業訓練学校・台東分校を卒業されたのが28年前。そのままフリーの製甲職人さんになられた方です。

 

我々素人にはなかなか想像できない、製甲に関するお話をお伺いしてきました。ただ綺麗に革を切って縫うだけがお仕事ではありません。
革靴のアッパーについてより理解が深まる機会になると思います。是非ご覧になってみてください。

 

 

製甲職人とは

 

製甲職人さんとは、革の裁断から梳き加工、ミシンで縫い合わせるところまでを作業し納品される、という職人さんです。もちろんライニング(靴の裏側の革)の加工や縫い合わせもされます。

 

康さんは、今はほぼ全てビスポークシューズの製甲をされています。他にも靴づくり関係で靴の企画をされたり若い方に指導をするお仕事されたり、あとは写真撮影のお仕事などもされています。
お仕事の流れとしては、革と革のパーツを切り出すための型紙を受け取って、そこから靴のアッパーを組み立てます。しかも木型は送られてこないため、その型紙からメーカーの意図やそれ以外の全ての情報を読みとらなくてはなりません。

 

そこに製甲職人さんのご経験と勘どころが詰まっているのだろうというのがお話をうかがって感じたところ。決して深く理解できたわけではありませんが、とてもおもしろいところです。

 

 

革靴を仕立てる

もともとはこちらの本に康さんのコラムが掲載されていて、そこで康さんを知りました。
コラムの内容がとてもおもしろく、製甲をする上で我々靴好きが普段想像し得ないような内容が書かれています。
こちらの本も是非ご覧になってみてください。

 

 

例えばステッチの話。

 

日本ではステッチは何cmの中に何針、というのがJIS規格で決まっています。それをメーカーの意向に沿って、多少調整を加えながら作業をされています。
しかし昨今市販されている革靴のステッチは昔の革靴のそれと比べると少し違うものになっているとのこと。

 

海外で生産された安価な靴は生産スピードを重視するために、ステッチの縫い目が荒く縫われているものが多いです。
日本の靴も、国内だと工賃が高くなってしまうので仕方のないことではありますが、やはり今と昔では靴の仕立てや仕上がりは違うようです。

 

昔のイタリアでは、華奢で細い針を使って細かーいステッチで縫われているものが主流だったようですが、今はそういう仕立ての靴は少なくなったとおっしゃいます。
また、イギリスの靴であれば、昔は太い糸でピッチも粗めだったようですが、それはスピードを重視して作られたからではなく、意図的にそうしていたとのことです。しかし、今では完全に工業品のようになってしまっているとのことです。

 

これはステッチを例にした話ですが、それ以外にも革靴の仕立て自体が昔とは違ってきているようです。

 

 

革を薄くするための梳き機

 

康さんは普段、内羽根の靴の依頼を受けることが多いとのことですが、同じ内羽根でも目指す仕立てによって型紙も違も設計も違います。
その方がイギリスで学んだ方なのか、イタリアで学んだ方なのかで型紙の作り方も違うわけですし、職人さんだからこそわかる細かい仕上げなども違うとのことです。
どちらの国の考え方も効率的な作り方ではあるんですが、デザインする人の数だけ型紙の解釈があります。

 

製甲職人さんはその型紙から設計者の意図を読みとって製甲の作業をされます。場合によっては、型紙のどこかに無理が生じていてアッパーを作れないような場合もあるようですが、康さんのお話しの中に出てくる『仕立てる』という言葉から革を切って縫うだけではない製甲の複雑さや難しさがあることが窺えます。
残念ながらメーカーやブランドの名前が出てしまうので、仕上がったアッパーなどはご覧いただけませんが、とにかく『型紙の解釈』という部分がキーワードになってきそうです。

 

 

何が違うのか?

 

では製甲職人さんが作ったアッパーは何がどう違うのか、と言う話。

 

耐久性

靴の見た目に関わる部分で差が出るだろうというのは想像に難くありませんが、靴のつくりという意味で耐久性の面においても差が出てくるようです。
それはミシンのかけ方だったりパターンの形や縫い合わせる場所によっても違ってくるようですが、木型も関係してくるし履く人の足も関係してきます。つまり、アッパーが壊れる壊れないというのは、製甲職人さんの技術だけでは完全にカバーできない部分でもあるということです。

 

木型が足に合っていたとしても、足に特徴があって反りが強いような足の方のような場合、思わぬところでアッパーが壊れてしまうということも。というのも木型ごとに必ずしもパターンを引いているかと言えばそうではない場合もあるため、既存のパターンを流用される場合はアッパーに対して意図せぬテンションがかかり、アッパーに負荷がかかってしまう場合もあるということです。

 

 

また、冒頭にお伝えした通り康さんには木型は送られてこないので、履き心地をコントロールできるわけではありません。ある程度、木型やどこにステッチが入っているのかという部分を想像しながら作られているようです。

 

もちろんプロなのでそういうところも想定して作るんですが…と康さんはおっしゃいますが、お話を聞けば聞くほど奥が深く、僕のような素人には想像が難しい世界であることがわかります。
でもそこがおもしろい。

 

革靴の立体感

ビスポークシューズの魅力のひとつには、履き心地やデザイン以外にも、あの見た目の立体的な美しさというものもあると個人的には思っています。
それは木型の形や釣り込みによって再現されるのももちろんですが、パターンによってつまり型紙の仕立てによってもあの立体感がうまく再現できるかどうかが違ってくるのだそうです。
康さんの場合は木型は送られて来ないので、型紙からその立体感を想定してアッパーを作られるわけですが、やはりその型紙が上手いメーカーさんは靴の立体感を再現されやすい。逆に型紙がそんなに上手じゃない場合は、康さんがいくら頑張ってもアッパーを作っても平面的になりやすいようです。

 

そもそも平面の革を木型という立体物にどう沿わせるか、というものを具現化したものが型紙なわけですから、そこも靴の仕上がりに大きく影響してくるだろうというのは想像ができます。
木型の立体感を忠実に再現すると製甲も難しくなったり、逆に平面的な型紙だと製甲はやりやすいんだけど釣り込みをする人が大変な思いをしたり、ということもあるようです。

 

 

ミシンについて

 

お話をうかがう中で、SNSで散見される趣味の靴づくりについて言及されます。

 

工業用ミシンはテンションがすごく高いことが特徴です。革の伸びに対応できて強度を保つためのものです。なので、上糸も下糸にもかなりテンションがかけられます。
しかし、家庭用ミシンは布を縫い合わせるため糸にテンションをかけずに縫うように設計されています。

 

そのミシンで革を縫ってしまうと、革の伸びに対して糸が負けてしまうことが十分考えられます。靴はあらゆるところが伸びながら維持されるものなので、糸のテンションが弱いと糸が切れてそこから革が切れてしまいます。

 

革靴をつくるという動きはすごく良いことだし、素人が作るべきじゃないという意図ではありませんが、そこは十分理解してほしいところだとおっしゃいます。
必要な道具の中にミシンというというものがあるということです。こだわりを持ってお仕事をされている製甲職人さんならではの、強いメッセージを感じました。

 

ただ、新規ではこういったミシンは作られていないようなので中古のミシンを調達いただくか、それが難しければ手縫いでしっかりと縫った方が強度が保たれるとのことです。

 

 

最後に

 

見たことのない靴のデザインだったり、木型の形も見たことがないようなものだったりすると、型紙もどうなるんだろう?とワクワク感みたいなものを感じることがある、とのことです。
でもそんなに楽しいと思って仕事はしてないというすごく正直な感想をお聞きし、職人さんならではの難しさを想像し、それと同時にご自身のお仕事にたいしてプライドをお持ちなんだろうと思いました。

 

普段素人が靴を眺めているだけでは想像できないような奥の深いおもしろい世界を垣間見る、非常に貴重なお話をうかがうことができました。

 

 

木型、パターン、製甲…と革靴を形成するいろんな要素がちょうどよく噛み合ってできたビスポークシューズに触れた時、僕も康さんのおっしゃっていたことが少し理解できるのかも、とビスポークシューズに想いを馳せながら、おっしゃっていた革靴を仕立てるという言葉の本質を少しでも発信できたら嬉しく思います。

 

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

ネルチャン登録よろしくネ

Share the post? シェアすんなよ!絶対すんなよ!
Related Posts 関連記事
Comments コメント

コメントをどうぞ

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

コメントは送信いただいてから表示されるまで時間がかかることがありますのでご了承ください。

Popular Categories 人気のカテゴリ
Instagram 革靴コレクション
僕の靴一覧はこちら
Profile プロフィール

くすみ
東京
1986.9.25 愛知県生まれ
『革靴の魅力や靴磨きの楽しさをもっと多くの人に知ってほしい』という想いでブログやYouTubeで情報発信を行っています。
前職の経験からシューメーカーのブランドサイトやオンラインショップの制作・カスタマイズ、広告運用を受け持ったり、ブランディングや商品開発のコンサルなども手がけています。
詳しいプロフィールはこちら

月間最高41万PV
webサイト設計・制作・seoコンサル
お問い合わせ