革質、シルエット、デザインなど、靴を好む基準は様々だけど、僕はこのウェルトの仕上げで結構ワクワクできる。
ハンドソーンの十分、つまり出し縫いまで手作業で行われるような靴によく見られる仕様なのだが、僕はここに燃える。
頭が回らないとき、ぼーっとここを眺めて過ごすことなんかもある。
革靴における…
ドレスシューズはソールのコバの張り出しを抑えたものも多く、僕はそういう靴も大好きではあるが、稀にこういうギザギザの目付けが施された靴がグッドイヤーでもある。ウェルトの目付けが全くないもの、うっすらついているもの、そしてガッツリ付いているもの。色々ある。
僕はこのウェルトの目付けは、絵画における額縁のようなものだと考える。
本来は出し縫いのピッチを決めるための目付けで機能的には別になくてもいいものだと勝手に思っているんだけど、これがあることで革靴の存在感がグッと上がる。絵画と額縁はセットであり、額縁は絵画を保護するためのものでありながら、絵画を際立たせるものでもある。靴の輪郭をかたどるものというか、様々な方向に線を行き交う複雑な靴のアッパーをウェルトでまとめ上げるというか、そんな役割も担っているように思う。
絵画における額縁。
植物における鉢。
音楽におけるドラム。
もんじゃ焼きにおける土手。
そして、革靴におけるウェルト。
いずれも主役を引き立てて支える大事な役割がある。
プレーンなアッパーをまとめ上げる
こちらの靴は木型が合わず全然履いていなかった靴を、靴職人さんにリラストしていただいたもの。革の使い方が贅沢すぎるジョンロブ [John Lobb] の靴をハンドソーンで仕上げていただいたものだ。ハンドソーンになったことでアッパーとソールの一体感が出まくっているが、それ以上にウェルトの目付けが完全にキマっている。
ほぼ装飾の無い、丸みのあるプレーンなこの靴を靴底がバチッとまとめ上げている。そんな雰囲気だ。
さらにウエストの部分は底材をぐるっとまくり上げるような仕上げになっていて、見る角度によってエレガンスも感じさせる贅沢な靴だ。
シームレスなヒールからスムーズに繋がるピッチドヒールも文句無しだ。
アッパーと底付けのメリハリ
一方でこちらのローファーは恐らくラマの柔らかい革が特徴のタッセルローファーだ。
靴のデザインバランスに浮ついたところが一切なく非常に硬派でクラシックなイタリアンローファーという印象。唯一シュリンクレザーのシボ目がその印象を和らげてくれる要素ではあるが、この底付けによって硬派な印象は揺るぎないものとなる。
また、ウエストの絞り込みも効いていることで、クラシックでありながらものっぺり感の全く感じさせない仕様。かかとからウエストまでは緩やかな曲線を描き、前足部ではソールが靴を引き締め、まとめ上げる。
アッパーの見た目の柔らかさとそれをガッチリと支える底付けの絶妙なバランス感がこの靴の魅力。「メリハリ」という言葉を体現しているようだ。
硬い芯材がしっかりと成形されており履き心地も安定感があって、本当に良い靴だと思う。
行き交う線をまとめ上げる
最近隙あらば部屋履きをして馴染ませているこちらの靴。
少々硬さがあったスペードソールもだいぶ馴染んできたが、厚みのあるソールと目付け、そしてこの独特なブローギングの模様と滑らかな革質も合間って、独特な存在感を放っている。仕上がりも綺麗だ。
厚いソールなので比較的コバも張り出しており、この目付けの存在感も強く出ている。
出し縫いと目付けのピッチを合わせるためのものではないが、最初に申し上げた通り、様々な方向に行き交うアッパーの線を底でバチッとまとめ上げるという役割を担っている。ヒールが比較的小さく高さもあるので、見た目的な安定感がありながらエレガントな仕上がりになっている。

というように、輪郭をかたどり靴を引き締めまとめ上げるのがウェルトの仕上げであり、見た目やプロダクトの存在感を大いに左右する要因でもあると考える。
グッドイヤーでコバを抑えたシュッとしたものも好きなのだが、ドレスシューズでもゴリッとした底付けのものも手が込んでいる感じがして素敵だ。
靴におけるウェルトはピザにおける耳でもあり、僕は薄いクリスピーな生地も好きだけどチーズインの重めのものも好きだ。という例えが一番わかりやすいのではないだろうか。
思うままにばーっと書いたけど「マニアックだなぁ」と思ってもらえたら幸いだし「だからなんだよ」と思われたら切ない。
なんて思う次第だ。

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