ガラスレザーという革の取説(特性・お手入れ方法・見分け方など)

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ガラスレザーとえいば、滑らかな表面とツヤ、そして何より安価であることが一番の特徴かと思い込んでいましたが、決してそれだけではなく、ガラスレザーにはガラスレザーなりの特性や設計意図があることがわかりました。
過去には製革業もされていた創業100年以上の企業・株式会社ニッピ・フジタさんにお邪魔してガラスレザーに関するお話を伺ってまいりました。

 

奥の深い製革業の世界を垣間見ました。
劣化やお手入れ、見分け方など、ガラスレザー全般についてご紹介してまいりますので、是非ご覧ください。

 

 

 

 

株式会社ニッピ・フジタについて

株式会社ニッピの創業は1907年(明治40年)
日本最大級の製革企業として、当時の日本製靴株式会社(現株式会社リーガルコーポレーション)に軍靴用の革を納めてきました。
現在は製革業はされていませんが、グループ会社である株式会社ニッピ・フジタがリーガルやハルタなどの靴メーカーに問屋業として革を納めています。
ニッピ・フジタ公式サイト

 

ガラスレザーという名前に由来した製法も当時のもの。今はガラスに貼り付けるのではなく、ホーロー板という大きな板に貼り付けてガラスレザーを製造しています。

 

次はガラスレザーという素材の特徴について。

 

 

ガラスレザーとは

 

まずはガラスレザーという革について。
ガラスレザーとは、主に紳士靴や学生靴の素材として使われる、表面を樹脂でコーティングしたツヤがあって滑らかな革です。
スムースレザーとの一番の違いは樹脂コーティングがあることですが、それによってこのようなメリットとデメリットがあります。

 

ガラスレザーのメリット・デメリット

メリット
  • 雨水や汚れに強い
  • 伸びにくい
  • お手入れ不要
  • 取り都合が良い(製造上のメリット)
デメリット
  • 劣化する
  • 伸びにくい
  • クリームが浸透しない
  • 加工工程が多い(製造上のデメリット)

 

では、ガラスレザーの性質について掘り下げてまいります。

 

 

ガラスレザーの性質

 

 

そもそも革は『食肉の副産物』でして、肉を食すために育てられた牛などの皮を鞣すことでできる素材です。なので「革を取ることを目的に育てられる動物はいない」と言っても過言ではありません。
脂が多くなるように育てられる牛もいれば、脂は少なく赤身メインで育てられる牛もいます。それによって動物の肌質は変わってきますし、動物の年齢によっても肌質は変わってきます。(両者の肌質の違いは、人間と同じようにイメージしてもらえればなんとなくわかると思います)
また、申し上げた通り食肉の副産物である革には、動物の育った証としてのシワや血筋やキズなどがあります。

 

しかし革製品、特に量産されるような革製品であればなおさら、商品の仕上がりを均一に仕上げる必要がありますから、上で述べたような革本来の模様を隠す仕上げを施して、肌質を均一にする目的で生まれたのがガラスレザーという革です。
革の表面(銀面)を擦ることによって模様を消し、そこに樹脂の塗膜を付与して、それを滑らかなガラスに貼り付けるすることで表面を均一で滑らかな素材にしようということです。

 

加工工程

ガラスレザーはざっくり大きくわけて、このような工程を経て作られています。

  1. ウェットブルー(※1)から染色
  2. 乾燥
  3. 銀面を擦る
  4. タイトコート(樹脂)塗布
  5. ラッカー塗布
  6. 塗装

 

※1 ウェットブルーとは?
原皮に染み込んだ鞣し剤の色が出て、少し青みを帯びた状態の鞣す前の皮

 

場合によっては樹脂の塗膜を2度塗るものがあったりと、実際にはかなりの加工を経て作られるのがガラスレザーです。
ガラスレザーは革の取り都合(※2)が良いのは事実ですが、実際に加工賃はかかる。
なので革の値段を左右するのは原皮(鞣す前の皮)次第というわけです。安い原皮を使えば安いガラスレザーに仕上がるし、高い原皮を使えば高いガラスレザーになる。

 

※2 取り都合とは?
革靴はパーツの形が複雑なので、裁断するパーツが小さい方が取り都合がよく、大きなパーツを裁断する場合は余る部分が出てくるので取り都合が悪くなります。

 

また、革には等級があって、A等級のものはもともと綺麗な肌目なのでそのままスムースレザーとして使われる場合が多いのですが、B等級のものはシワなどの模様やキズが多いのでガラスレザーに使われることも多いのも事実です。アジア原皮であってもフランス原皮であっても加工賃は同じなので、原皮の価格が革の価格を左右するということです。
つまり「ガラスレザー = 安い」と思っていたのですが、ある意味正解であり、ある意味間違いということです。

 

用途

 

ガラスレザーの用途のほとんどは革靴。
ビジネスシューズや学生用のローファーなどがその大半を締めています。靴のオンラインショップなどでは、ガラスレザーであっても「牛革」と表記されている場合もあり、画面を通して見ると一見他のスムースレザーと見分けがつかいないこともあります。

 

ちなみにこちらは学生用ローファーを作っているハルタのスポックシューズです。スリッパのようにサクッと履けるので、コンビニに行くときに重宝しています。

 

 

ということで、ガラスレザーの見分け方について。

 

 

ガラスレザーの見分け方

 

ガラスレザーとスムースレザーを見分ける方法は、水やクリームを吸い込むかどうかというところで判断すべきです。
正直見た目では判断が難しいのが事実です。

 

表面を樹脂加工していないスムースレザーには、よくみると革表面にポツポツと毛穴があることがわかります。生後半年以下の若い牛(カーフ)の革は肌目が細かく毛穴がわかりにくいものもありますが、よく見るとあります。

 

しかしガラスレザーは表面を擦っているため、毛穴がありません。さらに樹脂を塗布して表面を滑らかにしているためガラスレザーであることがわかりやすいものもありますが、毛穴の模様をプレスして「毛穴風」の仕上げをしてあるガラスレザーもあります。
こうなってはパッと見で判断がつきません。なので、水やクリームを吸い込むかどうか見分けるのが正解と言えましょう。

 

滑らかな表面のガラスレザー

 

毛穴風プレスを施したガラスレザー

 

店頭に並んでいる商品に水を垂らすわけにはいきませんから、お店で見分けたい場合は店員さんに聞くのが確実です。

 

 

スムースレザーとの違い

先にご紹介したメリット・デメリットを例に、スムースレザーとの違いをご紹介します。

 

避けられない劣化・ひび割れ

スムースレザーのシワは柔らかく、靴専用のクリームなどでお手入れをすると、柔軟性を保ち、革の風合いと程よいツヤが出てくるという魅力があります。

 

ガラスレザーの雰囲気

 

一方でガラスレザーはお手入れをしなくてもよいという最大のメリットがありますが、樹脂コーティングの物性上、屈曲を伴って靴のシワからひび割れが発生する場合が多いのも事実です。また、硬化剤が含まれているため経時と共に硬くなり劣化する素材でもあります。革靴においては修理して長く履くことを目的とした靴とは考えにくい素材でもあります。

 

 

表面のシワの入り方もガラスレザーとスムースレザーだと、ちがった雰囲気になります。

 

左:スムースレザー、右:ガラスレザー

 

スリ傷が入った場合、スムースレザーはクリームやコンシーラーで補色・補修することができますが、ガラスレザーはクリームなどで補修することは難しく、ワックスなどで隠蔽することしかできません。

 

 

良くも悪くも伸びにくい

学生の足は成長が早いので、ご存知ハルタの学生用のローファーは足に馴染みやすいように裏地が無い仕様です。
しかし、革が柔らかくなりすぎないように樹脂に硬化剤を含んでいるため、良くも悪くも伸びにくいのがガラスレザーです。

 

一方スムースレザーは、デザインによって多少左右されるものの、少なからず伸びが生じるので、足に馴染みやすいというのも魅力です。
ちなみにですが、人工皮革も同様に伸びにくい素材なので、足に馴染みにくいという特性があります。

 

雨水や汚れに強い

 

また、ガラスレザーは表面の樹脂によって、水や靴クリームの吸い込みが全くありません。なので、水に強いのも事実です。

 

一方、スムースレザーは雨水によって雨ジミができたりと扱いが難しい素材ではありますが、それでも大切に育てれば経年変化を味わえる、そんな魅力があります。

 

「取り都合」が良い

先に申し上げた通り革にはシワや血筋があり、そういった革の模様は靴には避けられる場合が多いです。
しかし、ガラスレザーにはシワや血筋が表面に出ない加工をされているので、靴のパーツを裁断するにはとても都合の良い革です。

 

メーカーの要望や靴の仕様によって弾力を持たせたり、仕上げ方を変えたりと加工次第で自在に素材の特性をコントロールしやすい素材でもあります。
比較的等級の低い革でも均一な見た目に仕上げることもできるため、加工の工程が必要になりますが、靴を製造する上では便利な革とも言えます。

 

実際お話を伺ってみると、靴の仕様を満たすために革のコシやツヤの度合い、仕上げなども細かく微調整されている模様。ガラスレザー素人の僕にはなかなか見分けがつきにくい世界ですが、靴によって革によって細かく仕上がりをコントロールされているようです。

 

 

お手入れ方法と長持ちの秘訣

 

申し上げた通り、ガラスレザーは水や靴用のクリームは浸透しません。
なので、スムースレザーのようにお手入れによって革を長持ちさせる手段はなく、あくまで延命させることしかありません。靴を綺麗に保つためにブラッシングをして土やホコリを落としたり、水拭きしてあげればそれで十分です。逆に言うとそれ以上のお手入れをしても効果を発揮しないと言えましょう。

 

また、表面から水が浸透しないということは、内側からの湿気を逃がす機能もほぼありません。汗に含まれる弱アルカリ性の「尿素」は革を硬化させる性質を持っていますが、革を乾燥させるとその効果が薄れると聞いたことがありますので、1日履いた靴は少なくても2日以上乾かして履くことで、革を延命できるというのも知っておくとよいでしょう。

 

ガラスレザーに使われる水性ウレタンが発するガスによって、劣化が早まる場合があります。
なので箱に入れて保管するよりは、定期的に履いたり、空気を入れ替えてあげることで多少の劣化を抑えるさせることができます。
とはいえ、硬化剤によって硬化する素材であることには変わりありませんので、磨り減った靴底を交換修理して長く履くことには向いていないのがガラスレザーです。

 

 

最後に

 

かなり長くなりましたが、ガラスレザーの特徴はご理解いただけたのではないかと思います。
等級の低い革を使って原皮の価格を安価に抑えることができるのも事実。しかし、加工の手間が多くかかっている革でもあるということです。

 

個人的には経年変化をする銀面のあるスムースレザーがやっぱり好きかなぁとおも思いつつ、加工工程や革の特性を知るとやはり奥の深さを感じ、興味が湧いてくる。そんな革でもありました。
ご予算や用途に応じて、お好みの革靴を選んでいただく参考になれば幸いです。

 

 

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

 

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