ビスポークの革靴を作っていただきました。
自分のために靴を作っていただくということは、こんなにも贅沢なことなのかと。正直そこまでとは全く想像していませんでした。
とても貴重な体験をさせてもらいました。
僕のために作っていただいた素敵な靴を自慢したいご覧いただきたいという気持ちもありますが、それ以上に自分の靴をつくってもらうこと、靴をつくる職人さんのことを知っていただきたいと感じました。
靴をつくってくださったのは靴職人のカタオカケンさん。
こちらの記事でもご紹介しています。
想いが募って長い文章になってしまったので、時間のあるときに読んでいただけたら嬉しいです。
ビスポークをお願いするという体験
計測から仮縫い、完成まで当たり前ですがはじめてのことばかり。
靴をつくる過程と感じたことなども書かせていただきます。
木型というミステリー
まず、自分のこの小さくて頼りない足からこの美しい木型ができるということが信じがたい。
ちょっと靴に詳しい方であればご理解いただけることと思いますが、まず靴を作る前にその人の足を計測し足の特徴などを把握した上で、木型を削るという作業が発生します。
僕にとってはそこが一番不思議な工程です。
僕の足を見ながら木型を削ってもらったわけではありません。足を計測したデータと、実際に足を触った感触だけを頼りにこの形に削り出すわけですね。(あと写真も撮ってもらったかな?)
3次元の情報ではなくて、あくまでデータは計測値と写真と感触だけ。それが本当に不思議です。
もちろん木型を削るための考え方やセオリーはあるんでしょうけど、はじめて仮縫いした段階ですでにかなりのフィット感を感じました。
また、単純に木型を削るのって時間もエネルギーも必要なはず。
ササッとできる作業ではありません。
自分の足のために、それだけ時間を割いてくださったということがありがたいことです。
2度の仮縫い
はじめてのビスポークでローファーをつくることって少ないそうです。ローファーは靴紐でサイズを調整できる靴ではないので、一般的にはフィッティングが難しいから。
僕は、今回は基本的にカタオカさんに靴の仕様をお任せしていました。
僕が注文すると結局僕の好きなものになってしまう気がしたのと、カタオカさんのセンスを存分に表現していただく靴にしてほしいと思ったからです。
ローファーもカタオカさんのご提案。
というわけで、フィット感の良い靴をつくるために2度仮縫いをしていただきました。これもまた贅沢な話です。
1度目。
2度目。
そして、完成。
靴下が映えない…
仮縫いの靴と本番の靴では多少工程も違うでしょうが、にしてもほぼほぼ3足分の靴を作ってもらったということになります。都度木型の調整もしてもらってるからとんでもない手間です。
カタオカさんはそれを全て1人でやられているわけです。
さらに今回は、仮縫いのたびに毎回東京駅まで来てもらってるので、移動時間も交通費もかけてもらってるわけです。
ね。靴をつくることがいかに大変か、つくってもらうことがいかに贅沢かおわかりいただけると思います。
依頼する側の不慣れ
ちょっと話が変わりますが、今思えば僕も不慣れでした。
はじめてのビスポークなので当たり前ではあるんですけど、それを体験をさせてもらって、本当にいろいろ勉強になりました。
自分の足に近い靴のサイズを選べるようになったのは本当にここ最近です。今までは自分のサイズがよくわかっていなくて大きい靴を履いていました。(逆にインソールを調整できるので、痛くなったり疲れたりしないので、それはそれで快適な靴ライフだったんですけどね。笑)
なので、どの程度足にフィットしているのがベストなのかが自分でもわかっておらず、フィッティングに関しての要望をお伝えすることをすごく躊躇しました。
さらに足がむくみやすく、夕方になると靴がきつく感じる非常にやっかいな体質です。拙い説明でできる限り自分好みと感覚を頼りに要望をお伝えしました。
結果、朝履くと気持ちの良いフィット感、夕方に履いても少しきつめの僕好みのフィット感を得られるよう、うまく調整していただきました。靴を受け取った日、1日中自宅で作業をしながら脱いだり履いたりしましたが、今の僕にとってはベストなフィット感です。
これからビスポークをされる方には是非、ご自分にとって気持ちの良いフィット感を理解しておかれることをおすすめします。
完成したローファー
すみません、出し惜しみをしたわけではないのです。
完成したローファーを自慢させてご覧ください。
フェティッシュなライン
木型同様、仕上がった靴のラインにもすごく艶かしさを感じます。自分の足がもとになっているので、なんというか複雑な感覚ではあるのですが。笑
我々靴好きな人たちって、靴のラインが好きですよね。そうですよね。そんな我々の思い描くフェティシズムがまさにここに表現されています。
かかともピッチドヒール。
絶妙な細さ、絶妙な角度です。
オーセンティックなローファー!というイメージではなく、エレガントなどちらかというと婦人靴のようなライン。
そして、トゥから甲への立ち上がり。釣り込みも大変だったことと思われます。
木型の甲もしっかり立ち上がっています。
エレガントという言葉がわかりやすい表現だと思いましたが、その一言で済ますのでは僕の気が済まない。でも他の言葉が思いつかない嘆かわしさ。笑
コバのメリハリ
特に好きな部分のひとつでもあるのですが、このソールのコバ。すごくメリハリがついています。
トゥからジョイント部にかけてはしっかりしたラインを描き、ジョイントからウエストにかけては丸みを帯びた柔らかいラインを描きます。
そしてかかとでしっかりと締めくくる。
接地面はしっかりと地を捉え、そうでない部分は柔軟に、みたいな意図があるのかわからないですけど、そんな機能美を思わせる仕上げです。
※あくまで勝手な想像です
ただただまっすぐなコバにするのではなく、こういう一手間にいちいち感動を覚えます。
ソールの飾り釘
個人的な趣味で、ヘ音記号を入れていただきました。
ほんとは左右でFホールを入れてもらおうかと思ったんですけど、それだと低音感が薄れる気がしたので、ヘ音記号で。
ちなみに楽譜は読めません。
下から見てもかかとは非常に幅が狭くなっています。
カールフロイデンベルグの革
今回貴重な革を使っていただいています。
今は無きドイツのカール・フロイデンベルグ社の革です。
非常に薄く、そしてキメの細かい柔らかい革です。クリームなんか入れなくてもいいんじゃないかと思うくらいの柔らかさ。
なので、このモカステッチが難しかったようで、ここでいろいろと試行錯誤をしていただき、結果この柔らかい革にも耐え得るオリジナルのモカステッチを実現していただきました。
そしてこのスキンステッチ。
この革の端切れをいただいたのでよくわかるんですが、よくこの薄く柔らかい革でこのスキンステッチを実現してくださったなぁと。
ただただ感動するばかりです。
結果、トゥもかかともなんと言うか非常に有機的でクラフト感のある靴に仕上げていただきました。
ご苦労をおかけしました。
さながら生き物のよう
有機的という言葉、書いててしっくり来ました。
革の質感、この縫い目、ハンマーで叩いた跡を見ると、手作業による柔らかさがあります。
良い意味で、パリッとした工業製品にはない魅力。
また、お願いするのは赤の他人ではない、靴を通して知り合った何度もお会いしてる方。
この人にお願いしたいと思ってつくってもらった靴です。ただただ作ってもらえればいいというわけではありませんでした。
カタオカさんといろいろ相談をさせていただきながら作った靴でもあるので、ある意味僕の想いもこもった靴なのです。
仕上がりや靴を作ってもらうに至った過程など、いろんな要素が相まって何か生命のようなものさえある気がします。
いや、この感覚は僕にしか理解できないかもしれませんね。笑
とにかく、思い出深いこの靴が僕は大好きなのです。
書きたいことが多すぎてなんだか雑多な文章になってしまいましたが、この貴重な体験をシェアさせていただきました。
時間を割いてくださったカタオカさんには、心から感謝してます。
本当にありがとうございました。
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