多様な革靴の世界の第3回目となる今回は、革靴の修理資材の多様性について、国内最大級の靴資材卸業者・株式会社昴(すばる)の営業部・塚脇さんにお話を伺います。
かかとの接地する部分:トップリフトの話、奥が深いです!
硬ければ長持ちするわけではない…
塚脇さん、今回の革靴に関する多様性について掘り下げていく企画、インタビューのご承諾ありがとうございます!
こちらこそ修理部材というマニアックなジャンルにお声かけいただきありがとうございます!
ニッチ過ぎる業界で需要があるのか心配ですが、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
いえ、革靴とかかと交換は切っても切れない話ですので、マニアックな話どんどん聞かせてください!
日本最大級の靴資材の卸をされているということですが、資材は何種類くらい取り扱いがあるのでしょうか?
また、修理の機械も扱っていらっしゃるんですね。
資材の種類については約2000種類程です。
これらはカカトの材料から靴・鞄修理で使われる工具から色補修剤まで取扱いがございます。
また修理機械に関しては海外製中心にグラインダーやミシンを扱っています。
婦人靴の資材も含めてだと思いますが、2000種類は多すぎてピンとこないです!笑
紳士靴の修理といえば、やはりかかとの張り替えが多いかと思いますが、トップリフトだと何種類くらいでしょうか?
紳士靴のトップリフトの場合、現在の弊社定番ラインナップで125種類になります。
内訳はラバー90種類・革付きリフト25種・スポンジリフト10種類です。
有名どころですと…
- Vibram
- HARBORO(ダイナイト、リッジウェイ)
- TOPY(フランス)
- MICHELIN
- US Vibram
- コンチネンタル
- Kilger
- Gerberei Martin
などなど、他にも日本製、韓国製と世界中のヒールがあります。
聞いたことがないものもたくさん!
トップリフトについて、もう少し掘り下げたいのですが、素材ごとにどんな違いがあるんでしょうか?
トップリフトは基本的にはゴムやスポンジで成型されている物が多く、違いについては硬度・重さ・摩耗度はじめ、路面事情に合わせて、タウンユース、登山、雨の日・積雪向けなど実は非常に細かく用途別に種類があります。
その中で現場の職人さんが選ぶ基準としては、タウンユース使用が最も多いので、「長持ちする物、耐久性の高い物」をお客様の為を想って選択される事が多いです。
ちなみに、どの材料が長持ちするかと非常に多くご質問いただきますが、こちらは硬度の高い(硬いゴム)材料イコール長持ちすると言う事ではありません。
え゛!
違うんですか!
例えば有名なヴィブラムヒールでも、消耗が早いという方と、長持ちすると言う方がいます。
これらは、人によって歩き方(負荷のかかり方)、身長、体重、靴のフィッティング、路面事情によって減り方は変わってしまいます。
私自身が経験として、靴ごとに左右違うヒールを付けたり、日々の歩数、路面状況、履いた日数など記録して実験を行ったりしましたが、例えば、鞄を持っている側が減りやすかったり、ヒールの高さによって変化したり原因は様々です。
年齢とともに健康状態が変わっていくように、靴を選ぶ事と同じで、自分に合ったゴム質が硬い物、柔らかい物、粘り気が強い物など、お近くの修理屋さんでご相談いただければと思います。
実際にご自身で実験されるの素敵です!
確かに鞄を持つ側や組む足によって、左右で脚の長さが違ったり、身体に歪みがあったりすると以前整体で聞いたことがありますが、靴の摩耗にも関係するんでしょうね。
トップリフトの硬度と耐久性…そして粘り気とは
ちなみに、硬い・柔らかい・粘り気が強いという3種類において、それぞれの特徴を簡単に教えていただけますでしょうか?
履き心地や耐摩耗性で評価されるのかと思いますが、「粘り気」という要素がどう影響するのか、とても気になりました。
ブランドの中でも、モデルやデザインによって硬度も変えており、いざ修理して足元で感じる感覚も人それぞれなので参考程度になりますが、以下のようなイメージです。
硬い |
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柔らかい |
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粘り気 |
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こうみると「粘り気」のゴムのメリットが見えますが、デメリットとしてはコストが高いことや、職人目線では、作業上の接着が難しくなる、削る断面が整えにくい等があり、職人からは敬遠されがちでした。
昔は材料の種類も少なく、硬いゴムが主流だったのですが、近年は材料の種類が増えたり、接着剤の進化、職人さんの技術水準が高くなった事により「粘り気」の強い材料を取り扱っている修理屋さんも増えています。
よりマニアックにゴムの配合について詳しく知りたい方は、職人さん向けのこちらの勉強用ページをご覧いただければと思います。
「粘り気」系の履き心地、めちゃめちゃ気になります!
あと、ゴムだけのものではなくて、ラスター(革とゴム混合のトップリフト)だとどうでしょう?
どちらかというと、積み上げと素材感を合わせるための、美観的な要素が強いですか?
ラスターも、実はゴムの種類がメーカーによって違います。こちらも硬度違いで種類が分かれます。
もちろん、美的要素の側面もあり、例えばハンドメイドで靴を作る方は、手作業でのゴムの断面の仕上げが綺麗になるように、硬いゴムを好まれる方が多かったりします。他にもコツコツ音を鳴らしたいなど靴好きならではの面もありますね。
最近だとラスターのゴム部分だけ、別のパーツVibramやコンチネンタルでオーダーラスターを作ってくれるマニアックな修理職人さんもいますので、ぜひ探してみてください!
個人的には程良いコツコツ音は欠かせないところなんですが、素材の硬さが関係してるんですね。言われてみれば納得です!
逆にすごく需要が少ない資材や、ニッチだけどおもしろい資材なんてあったりしますか?
ニッチなものは有りすぎて紹介に困りますね。笑
例えば、クリスチャンルブタンのアイコンであるレッドソールに滑り止めを貼る際には専用のミラーハーフソールという商品があったり…
近年のスニーカーブームによって、靴修理店でもスニーカーリペアに対応出来るようにカスタムリペア出来るようなソールが販売されていたりします。
ちなみに弊社はBtoB専門卸売りになっており、一般販売を行っておりませんでしたが、年々要望も増えてきたので、上記の一般のお客様向けの専用サイトも設けております。
こちらは、まだ始まって日が浅いので今後、商品掲載数を増やしていければと思います。
靴好きの繋がりで、ご自分で修理をされる方や靴を作ってしまう方もいらっしゃるので、そういう方々には喜ばれるサービスですね。
まずは修理の可否を相談してみる
資材の種類や仕入れに関して、修理屋さんからは何か要望があったりするんでしょうか?
現場では様々なお客様の要望に対応出来るように、ほぼすべての材料を1足単位で販売しています。
また新商品の開発においても、現場の職人さんからの声を参考に開発に努めています。
他にも日々修理技術も進化しつづけていますので、職人向けの接着剤の講習会開催や、今後は修理技術講習会など開催予定です。
逆に、お客さんから修理屋さんへは、どんな要望があるんでしょうか?
僕はあまり大きな修理はやったことがないのですが、難しい要望や中にはなかなかの状態の靴が来たりすることもあるんじゃないかと予想しています。笑
今もまれに店頭に立つのですが、お客様の声が多いのは無理難題の接着修理やクリーニングの相談が多いです。
特に革靴やスニーカーの加水分解や底剥がれ、革靴のキズ補修など時間のかかる修理を早く安くやって欲しいなども職人泣かせではあります。
他にも「元通りして欲しい」「インスタグラムの〇〇の靴みたくカスタムして欲しい」との修理希望などもあり、職人としては再現性の高い材料の取扱いですね。
確かに…何が直せて何が直せないか、わからない人はわからなくて当然ですよね。
直せる部分もあると思いますし、これはさすがに直せないってものもあると思いますが、まずは修理屋さんに相談してみるのが第一歩ですよね。
そうですね。まずはお近くの修理屋さんへ本当小さなお困りごとからご相談いただければ思います!
全国には本当に素敵なお店が沢山あり、チェーン店だから個人店だからという「枠」で捉えずに、
皆さんが素敵な職人さんに出会えて、大切な靴を長く履けるきっかけになれば嬉しい限りです。
この度はありがとうございました。
今回のトップリフトの話はマニアックとはいえ、履き心地や耐久性にも関係してくるので我々靴好きにとっては大事な話だと思っています。それに好みに合った資材を探してみるのもおもしろいですよね。僕はコツコツは欠かせないけど、粘り気も気になってます。笑
おもしろいお話、ありがとうございました!
株式会社昴さんのwebサイトはこちら
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