ガジアーノといえばこの靴!みたいな靴は2〜3種類は思い付くし、そういうブランドの個性が表現されている靴もいいなぁと思うけど、独創性だけで靴を選ぶと使いにくくてあまり履かなくなってしまうこともあるのでそこのバランスってすごく難しい。
今回は深く考えず使いやすさを重視した「守り」な選択だったけど、満足度がひたすらに高い。
ホールカットというデザイン、木型、革質、そのあたりについて僕の思うところを書かせていただきたい。
こういうシンプルだけど上質なものは、靴に限らずやはりよい。
今回の革靴
- Brand : Gaziano Girling
- Design : Whole Cut
- Size : UK5
- Width:E
- Leather : Black Calf
- Last:TG73
- Sole : Single Oak Bark sole
使いやすさ=守り
黒で装飾のないホールカットならビジネスでも少々畏まった場でも使えるし、木型のシルエットと革質の素晴らしさを存分に味わえるに違いないということで、このシナトラ [Sinatra] というモデルでMTOをすることにした。
MTOにしたのは既成のサイズでUK5がなかったからであるチクショー
そんなことより、改めてホールカットはよい。
革靴の仕様やデザインバランスについてああだこうだ言うのは僕の楽しみのひとつではあるけれども、ホールカットであればそういった些細なことから解放され、おとなしくこのシンプルで美しい靴そのものを楽しみなさいよ、と思わせられる。
見た目にも道具としても潔さを感じるデザインだ。
今日はドレスにキメ散らかしたいという場合や、気分的に「今日はストチじゃない!」という場合にも履きたい。
内羽根であってもローファーであってもやっぱり黒は正義だし、この圧倒的なドレス感からは品格すら感じる。
僕もそれを履くに相応しい人間にならなければとは常々思っている。そう、思ってはいる。
そういえば、今となっては当たり前のことだけど、ストチがフォーマルの代名詞的ポジショニングを担っていることに対して、ふと疑問を覚えることがある。この1本の線はなんやねんと…。
海外のサイトを読み漁っても明確な答えは見つからなかったけど、いろんな歴史を経て今この時代ではキャップトウオックスフォードがフォーマルなんだよなぁと納得している反面、僕個人のイメージで言わせていただくとフォーマルのとして扱いたいのはストチよりホールカットかなと。
余計なものを削ぎ落とし洗練され尽くした、そんなイメージだ。
いやぁホールカットはよい。
円安に煽られた
この靴をオーダーした4月の後半は為替相場がちょっと円高傾向に向かう兆しが見えたタイミングだったけど、若いときはそれで何度も為替取引の失敗をしてきたので、もう少し待って買おう!とはならず、思い立ったその日に決済をした。
ポンドは160〜161円だったと記憶している。
僕がイギリスに行った2019年7月はポンドが136円だったことを思い出すと、下唇に血が滲む。
そんな昨今の為替相場に煽られて勢いでオーダーしたけど、今は夏真っ盛りでローファーばかり履いてしまうし、僕にとってこの靴が今必要ないことは間違いない。
でもそんなこと言ったらキリがないし、今は165円まで上がっているからよしとしたい。
ただ、円安であっても円高であってもそもそも高い靴ではあるけど、やはりマシンメイドつまりグッドイヤーでこのクオリティーの靴を見せられると、納得せざるを得ない。
特に底付けの仕上げは秀逸で、このウエストのくびれで出し縫いをかけるところと、クレバリーも同じく「この価格帯の靴フィドルバックあるある」も技術の高さを漂わせる。
今となってはフィドルバックに対して僕はそんなに興奮はしないけど、半カラスも相まってこの写真の底面はとても美しい。
ヒールの削り込みも丸みが綺麗に出ている。
木型:TG73
ロングノーズに見えるけど、他のUK5の靴とアウトソール全長を比べてみても実際はそんなに長くはない。木型の細さと薄さ、あとつま先の細さがその視差を生んでいる。
かかとがまぁまぁ大きいのは英国靴らしさがあるけど、履き口まわりと踏まずの少し上はかなり絞っているので、後足部のホールドはまあまあすごい。かかとが大きい小さいというのはよく話題にあがるけど、かかとの食いつきは大きさだけで決まらないんだろうなぁということがよくわかる。
ただあえて欲を言わせていただくと、やっぱりかかとの外側はもう少し絞ってくれた方が僕の足には合ったかなぁというくらいだ。
あと、小指の中足骨まわりを絞ってくれてるので、長時間履いても足が外側に流れていくのを防いでくれそうな気がする。ウエストガースとインステップガースのホールドがめちゃめちゃ気持ちいい。
小指の付け根が痛くなりやすい僕にとっては嬉しいフィット感だ。
人によって足の形は違うし履き心地の好みはあるけど、僕個人の好みを言わせていただくと、指まわりはそんなに圧迫せず、ウエストガースとインステップガースでバキッとホールドしてくれる靴が好きで、この靴は既成靴でありながらそんな僕の好みを体現してくれている。
ツリーを見ても踏まずまわりをしっかりと絞っていることがよくわかる。
革が良すぎてもはや無情
この革はズルい。
子牛の革だなぁという感じのキメ細かく、薄くて柔らかい。ペラペラした感じではなくもっちり感のある柔らかさだ。
絞るところをしっかり絞った木型だけど、ここまで革が柔らかいと足あたりがとてもよい。もはや硬い靴を履き慣らすことが当たり前になりつつあったけど、高い靴はそういう苦労すら解放してくれるんですね。
「悪い楽器を弾くほど人生は短くない」という言葉があって、それはつまりアコースティックの楽器は弾いて弾いて弾きまることで徐々に音が良くなるけどそれには時間がかかるし、ただでさえ人生は短いのだから最初から良い楽器を買った方が良い音が出ますよね、ということなんだけど、なんか通ずるところがある気がして無情だ。
こんな革を見せられたら、こりゃ高くても仕方ないわと納得せざるを得ない。
この光の反射具合を是非ともご覧いただきたい。僕があれこれ書かなくても滑らかであることが十分お分かりいただけると思う。
なんかいい革すぎて悔しいけど、皺入れが楽しみな革だ。とりあえずトウスチールをつけたい。
ホールカットであるということは革の縫い目がないということで、それはつまり靴が伸びやすいということでもある。薄くて柔らかい革なので少々心配ではある。
今いいサイズだけど、オイル系を入れすぎると伸びてゆるくなってしまわないか。この柔らかい革をどう育てていくかは本当に悩ましく、とても楽しみだ。
シナトラ
僕の持っているカルミーナのホールカットはつま先がセミスクエアなので、こっちはラウンドでもいいかなぁと思ったけど、シナトラというモデルの本来の仕様を尊重したくて、特に仕様の変更などはしていない。
シナトラはジャズではあると思うけどポップスとか映画音楽のほうが近い気がして、オペラパンプスとか派手なスペクテイターシューズのようなものが似合いそうな気もする。
少なくともこのドレスなホールカットという印象ではないので、イマイチしっくりきていない。
ガジアーノの人に聞いたら、ジャズを聞くのが好きでシナトラと名付けたんだよ、と教えてくれたけど、それ以上詳しい話は教えてくれない。
とはいえニューヨークニューヨークと希望に満ちた歌はなんやらすごく華やかだし、恋や愛に対する悲しみや憎悪を歌う曲が多いのがジャズだけど、それを感じさせないゴージャスな雰囲気がシナトラの歌声にはある。
いい革いい素材を仕入れて、いい外注先に作らせて、いい写真をポストするとやはりゴージャスな靴に見えるから、実際その人の生き様とかバックボーンなんかは二の次になるし、なんならちょっとミステリアスなほうが魅力的に見えたりするから不思議だ。
でもやはり良い楽器と同じく歌声のような先天的な能力を持って生まれることはやはり才能であり、選ばれた人のみが享受できる贅沢でもあり、そういう靴が作れるガジアーノ&ガーリングというブランドはそのポジションを築いているのも間違いない。
ホールカットが持つ潔さ、品格、艶やかさを、まとめてざくっとドレスという言葉で片付けることは簡単だけど、実は良い素材と技術が求められる贅沢な靴なんだということを改めて感じる。
そして、こんなにも贅沢なのにこんなにも使い勝手の良い靴は意外と珍しい。
うん、改めてホールカットはよい。
使いやすさ重視の選択は僕の中では「守り」ではあったけど、我ながらおもしろい守り方をしたと自負している。
黒、ネイビーのホールカットは制覇したので、次はダークブラウンのホールカット、ラウンドトウがええかなと思いつつ、いやチゼルの尖ったホールカットで揃えてもええかなとも思う。
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