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違和感を消し多様性に応える靴を提案するパターンオーダーブランド [WATARU FUJIE]

小さいサイズのスエードタッセル入荷!
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2022年からはじまった富山県のMTOブランド・WATARU FUJIE の藤江さんにお話を伺いました。
見た目のバランスや、そのデザインに至った意図や細部へのこだわりなど、とてもおもしろいお話が聞けましたので、是非ご覧ください。

 

 

きっかけは個人輸入したオールデン

 

この度はインタビューのご承諾ありがとうございます!
まずは、藤江さんのご経歴を教えていただけますでしょうか?

 

 

この度はWATARU FUJIEにご興味をお持ちいただきましてありがとうございます。
インタビューを通して昔の自分と向き合う機会になり何か新しい閃きがありそうで楽しみです。

 

私は夢も希望も持たない、どこにでもいる一般的な若者でした。
学生の頃はいかに女性からモテるか、同性をどこまで笑わせられるか、つまり目先の楽しいことを最優先に勉強そっちのけの毎日で、友人と遊びあるき、家には寝るために帰っていたように思います。

 

中学生時代はバスケ部に在籍し、入学当初から170cm あったこと、そこそこ走れて跳べたので3年生の試合にも出させてもらったりして県選抜にも呼んでいただきましたが、3年生最後の大会(出身は石川県津幡町という山に囲まれた群に所属する地域)直前に足に怪我を負い出場できない最後を迎えたのは苦い思い出です。

 

目先の楽しみばかり追っていたので将来について何も考えないまま18歳を迎え社会に出ました。
当時仲良くしていただいていた地元の先輩に誘われて型枠大工からスタート。
初めて社会を見て、初めて自分の人生を考えるようになりましたが周りは皆大学へ進学。
医師を志すモノもいてこの落差はなんだと病んだ時期でもありましたね。この頃は人生をどうしたら良いかわからず必死で読書をしていました。

 

赤裸々ですね!!

 

そんなころファッション誌で見かけた、まるでスライムのように姿形を変えた年季の入ったオールデン990が目に留まり、それまで洋服は好きだったものの革靴はオヤジが履く退屈なものだと思っていましたがこれは違う。絶対面白い。自分で育てたい。
そう感じて気付けば革靴のことを調べる毎日。知れば知るほどに次から次へと新しい疑問が沸いてきてこれまでのバスケや遊びよりも夢中になっていました。

 

売っていないなら個人輸入もあるとの情報を見つけポチり。
初めて見る英語の表記が書かれた送り状、
段ボールの中にあるグリーンの箱、
紐の通っていない靴、
憧れていたコードヴァンの香り…。

 

サイズが合わないことも勉強となった990

 

自分で皺入れも行いましたし、ケア用品も少しずつ揃えて試してみたり。
なんと言っても自分で磨いて休日に履くのが最高の楽しみでした。
その頃はまだスキンケアもしていなかったので、ある意味自分の肌より靴の肌をを大事にしていたようです。

 

その頃ちょうど「好きなことを仕事にする」が一旦の結論になり手に職という事で靴修理を学べるところがないか探していたところ、石川県金沢市新竪町のKOKONで販売のアルバイトを探しているとのことで、少し違った形ではあるものの、好きな靴に携われる喜びですぐお返事をさせていただき、キャリアがスタートしました。

 

KOKONで3年勤め、富山県へ移りAZALEAというショップを開業約4年後の一昨年2021年11月にWATARU FUJIEへリブランド。

 

ざっとこのような経歴です。

 

ありがとうございました!エモいです!
僕も25くらいまでは同じように、日々このままでいいのかという焦燥感をいだいて生きていたので、勝手に親近感を覚えました!

 

 

パターンオーダーと九分仕立て

 

パターンオーダーがメインのブランドでしょうか?

 

はい、2023年7月現在、パターンオーダーのグッドイヤーと調整もできる九分仕立ての2種類のウェルトシューズをご注文いただけます。

  • グッドイヤーはパターンオーダーで74,000円〜(23.0〜28.0cm)
  • 九分仕立ては木型調整やパターン調整も行えます。128,000円〜(23.0〜28.0cm)

 

パターンオーダーが7万円台なのは、とても良心的ですね!

 

ユニークな点は、

  • Width で細かいフィッティングを合わせて行くのではなく羽根の開き具合を選べるようにしていること
  • 左右でサイズの変更や上記の羽根の開き具合を変えられること

 

羽根の開き具合

 

羽根部分の余白を作り出すことで、甲の部分のアッパーで足をしっかり包み込み足が前滑りしないようなフィッティング。
さらに足の左右差が大きい方にはサイズを変えるサービスもございますので、お一人お一人に可能な限り寄り添うことを目指して、パターンオーダー以上の靴を目指しております。

 

また、将来的には木型の追加や新デザインの開発に加え、セメント製法のシューズが加わる予定でおります。

 

靴の製造は委託されているのでしょうか?

 

私は設計デザインと販売を行なっております。
非常に信頼しているFYSKY に製造をお願いしております。

 

FYSKYの職人さんとディレクターさんとは少しだけお話しさせていただいたことありますが、すごくこだわりを持ったメーカーさんという印象でした。
富山発のブランドではありますが、靴は東京で作られているわけですね。

 

 

ドレスシューズの解釈と個性

イルチアのボックスカーフが美しいキャップトウ 九分仕立て

 

カチッとしたドレスシューズもあれば、ボリュームのあるラバーソールのカジュアル仕様の靴もあるようですが、いずれもクラシックな靴のデザインがベースになっているように思います。

藤江さんとしてのドレスシューズの解釈があるように思ったのですが、いかがでしょうか?

 

はい、簡単に申しますと、ドレスシューズをもっと多くの方の日常の靴の一つにしたいと思っています。
スニーカーもいいけど、やっぱり足が蒸れて暑くなるのが我慢できないんです。
だから革靴を履かなければならないけど、トラッドじゃない格好もしたいし、じゃあそういう、iPhoneみたい万能なのがいいよね。な感じです。

 

一通り履いてこられたお客様に人気の
vibram cape town ソール
独特の柔らかさは一度履くとクセになります。

 

詳しくお話しをいたしますと、先ず作り手となると覚悟を決めた際に、

①誰かの真似とならないこと
②作り手が客層や性別を選ばないこと
③さまざまな多様性の実現

 

上記3ポイントを軸に考えました。
これまで約10年靴の販売をさせていただき結局、現役世代の男性しか楽しんでいない現実は作り手側がそうしているのでは?と考えを巡らせ、あの990のように自分で手入れをして(自分で手入れをしなくても、できなくてもよいと思います)晴れの日に履く喜びは現役世代の男性だけの特権ではないと思うのです。

 

だから、もう少し多様性を飲み込めるようなモノづくりをしたいと思いましたが、いざ作ると決めたところでそうそうヒントは降りて来ませんでした。

 

「多様性」をいうキーワード、とても興味がありますが…
最初は降りてこず、その後は降りてきた、もしくは他のヒントがあったのでしょうか?

 

色々端折りますと、ヒントになったのは「現代建築」でした。
歴史あるお城や、豪華絢爛な住宅では住む人を選んでしまいますよね。線の数や装飾を省いた簡素な住宅や商業施設は人を選ばないし、安藤忠雄さんやミース ファンデル ローエさんが特に好きなのですがシンプルな建築だから、全ての線に意味があると思います。

 

  • 装飾や線を限定すること
  • ラインに意味を持たせること

をじっくり考え、ヴァンプのラインもどうしてこのような一つの線になったのか、私には理由があります。

 

 

それと同時に、違和感を消すこともしっかり考えました。
格好いい、可愛い、男らしい、クラシック、華奢、高い安い、なぜそう感じるのかをに徹底的に分析し、多くの方に一見しただけで、いいなと思っていただけるプロポーションを目指しています。

 

シンプルに設計することが、ドレスシューズを多様な価値観に対応させことができる靴になると考えていて、ビスポークシューズのような新しくデザインも起こせる特例を除き、WATARU FUJIEのカスタムメイドはより多くの方の潜在的なニーズにお応え出来るのではないかと思っています。

 

「違和感を消す」というのが興味深いです!
シンプルで美しい靴に仕上げるからこそ、多くの人に選んでもらいやすい…つまり、多様な価値観に合いやすい。
それが、先におっしゃっていた「日常の靴の一つにしたい」というところにつながってくるわけですね。

 

 

意味があるライン

 

貴ブランドのwebサイトには、曲線と直線に関する記載があり、興味深く読ませていただきました。

デザインを描くラインや靴のバランスについては、どういうところに藤江さんのこだわりが詰まっているのでしょうか?

 

椅子などをよく例にあげるのですが、有名なプロダクトだと遠くからでもそれとわかるように、椅子各々にオリジナルのライン(曲線)があります。そのラインこそが個性やオリジナリティの根源だと思います。
もちろん素材の組み合わせや素材の強度からくるプロポーションなど、多彩な要素が組み合ってのことなので曲線だけで議論すべきではないのですが、それでも椅子は好みが分かれますよね。

 

つまり特徴が個性となりそれに共感する人が好きになったということ。
この共感がポイントで、つまり個性的な曲線は好みがわかれるのであれば、作り手好みのラインではなく、人が見て、美しいと感じる黄金比率をデザインラインに落とし込むことがより多くの人に共感を得るのではと考えました。

 

  • パルテノン神殿
  • 富嶽三十六景神奈川沖浪裏

 

など、
黄金比率になっているのは有名な話で、これは違和感を無くす作業と美しいバランスを追い求めると、そうなったということに他ないと思います。

 

古くから続く伝統的なスタイルを踏襲しながら現代に合うデザインにしたかったので、全体のバランスは黄金比率を参考に、なくすことのできない曲線やメダリオンは黄金螺旋を用いています。
さらに現代的要素として直線を取り入れ、部分的に曲線で無くても良い部分や螺旋と螺旋を繋ぐのにも直線を取り入れています。

 

黄金比率と直線で構成するパターンは どことなくモダンでスッキリしたデザインに近づいていると感じていますし、ライン一つとっても意味や意図がこもっています。
これが私の考えるデザインです。

 

個性を「他と違うこと」という捉え方ではなく、美しさや好まれるデザイン、という「機能」として解釈されているという感じでしょうか。
個人的にもデザインバランスがすごく素敵だなぁと思ってまして、どこかが長すぎたり短すぎたり、主張が強すぎるというようなことがなく、おっしゃる通りモダンという言葉もしっくりきます。
とっても素敵!

 

 

黄金比率と直線の組み合わせ

 

一応解説をさせていただくと、黄金比率というのは 1:1.618 のバランスでデザインに美しさと安定感を与えるという比率のことですが、具体的にはどんなどういった仕上がりになっているんでしょうか?

 

 

靴全体の長さから割り出した数値を元に、半径の異なる円をいくつもトレーシングシートに書き出して大きさの異なる円と円との組み合わせでしっくりくるバランスになるまで考えたヴァンプライン。
ウェルトに落ち込む曲線の2乗した円数値がフェイシング(靴紐横のミシンのステッチ)が落ち込む曲線になっています。それらとそれらを繋ぐのに曲線ではなく直線を選んでいます。(いつか直線の全くない曲線だけのデザインを考えてみても面白そうです。)

 

ポイントは靴全体の長さを元に描く円の大きさを計算しているので、靴のスケール感に対する曲線の収まりがとても自然です。

 

アップルのロゴみたいな感じで靴のラインを描いているわけですね!
※「Apple ロゴ 比率」で検索
良い意味でクセの無い、絶妙なバランスだなぁと思っていましたが、そういうアプローチでデザインされていたわけすね。

 

 

 

また、完全再現とはいきませんが、メダリオンのグルッと渦を巻いている箇所なんかは分かりやすく黄金螺旋になっています。
メダリオン全体のプロポーションはもちろんのこと、基本的に黄金螺旋と比率、直線で構成されているオリジナルのメダリオンは私らしい控えめ過ぎず主張しすぎずのバランスになったと思っています。
靴全体を見ていただいたときに良い印象をもっていただくためには、メダリオン一つも当たり前ですが何でもいい訳でなく、細かい細部まで手は抜けません。

 

 

もちろんタッセルローファーも房のバランスからモカ縫いのアールまで、全て同じ考えです。

 

また、WATARU FUJIE でのベースモデルは25.5cmで、ベースモデルで細かい調整を繰り返し製品化していてそこからグレーディング(サイズ展開)をかけています。
メダリオンやパーフォレイションと呼ばれる親子穴も基準となる25.5cmのモデルサイズから離れた28.0cmや23.0cmになった場合にも、バランスが乱れないよう、メダリオンの全体の大きさと穴の大きさを変更して製作しています。

 

大きいサイズには大きいバランスのメダリオンと大きい親子穴。小さいサイズには小さいバランスのメダリオンと小さい親子穴を使っていて、サイズが変わったとしても全体のリズムを崩さないように考えています。

 

 

ドレスシューズの領域の話なのでどうしても男性のイメージがありますが、女性にも可愛いと仰っていただけることがとても嬉しいです。写真のようなコンビシューズなどを女性にもご提案していきたいですね。

 

製甲屋さんが苦労するところですね。笑
メダリオンだけでなく他のパーツなんかも、サイズ展開するとどうも違和感を覚える…みたいなことってありますよね。
藤江さんの美観へのこだわり、とてもよくわかりました!

 

 

木型の設計

 

木型についても教えていただけますでしょうか?

設計や種類など、可能な範囲でお願いいたします!

 

木型は歩きやすさもそうですが、歩いていない時のリラックス感も同時に大事にしています。
そもそも30代後半になるとあまり修行はしたくないですし、歩きやすい靴とはよく謳われますが、歩かない時間もあります。

 

いやぁ、わかります!
もうそんなに修行はしたくない…笑
キツめで気持ち良い木型と、キツめだと苦しい木型とありますが、緩急をつけているという感じですかね。

 

踵と甲で靴が脱げないように履くことが出来れば、幅などはゆったりしている方がよいと考えていますし、ずっと長く履ける靴であれば、あまり緊張感の無い履き心地のほうが長く付き合えるし、そうでない靴はいくら高額でも将来手元に置いてある確率は下がると思っています。

 

機能面は、踵は若干小さめ、幅ひろめ、爪先のそり返りを抑え、少し内側に倒しています。
ビジュアル面は、爪先のセンターと木型のセンターを極力合わせ、クラシックすぎない見た目にしています。

 

 

ベージュとダークブラウンのバイカラー
優しい見た目と履き心地なので
子育て世代の休日の相棒にもおすすめです

 

 

いかがだったでしょうか?
WATARU FUJIEについて少しでもご理解をいただけましたでしょうか?

 

ボリュームのあるソールなどが目についてしまいますが、それは少しハードなiPhoneケースを選ばれたケースで、自由にご自身のライフスタイルに合いそうなレザーやソールを選んでいただき楽しんでいただきたい気持ちからスタートし、これまで経験したこと感じたことを少しづつ積み上げて少しづつ削いでいった考えを具現化しました。

 

1人でも多くの方にドレスシューズをもっと自由に楽しんでいただけるお手伝いが出来ますとこの上ない幸いです。

 

興味深くお話し聞かせていただきました!
ありがとうございました!

 

 

WATARU FUJIE について

 

住所 〒930-0061
富山県富山市一番町4丁目2番
TEL 076-464-3669
営業時間 12:00~18:00
定休日 水曜
オーダー費用 ・パターンオーダー:74,000円〜
・九分仕立て:128,000円〜
webサイト https://watarufujie.com

 

 

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