その人のための靴作り、靴職人・外林 洋和さんのアプローチ

SNSがきっかけでやり取りをさせていただいてる靴職人・外林 洋和(そとばやし ひろかず)さんにお話し伺いました。
SNSでは、『よめせん 靴をつくる人』というお名前で活動をされていて、靴作り以外にも靴作りを多くの人の知ってもらうためのサイト運営や動画発信など、そのご活動は多岐に渡ります。

外林さんのご活動について掘り下げさせていただく記事ではありますが、とりあえずこの靴を見てほしい…

アッパーと木型は別の方によって作られたものですが、吊り込みや底付けは外林さんが担当されています。
平面だった革がここまで立体的になったのかと考えるだけで、革靴というプロダクトへのロマンを感じざるを得ません。

あとは、ウェルトの目付け。出し縫いのピッチに合わせて、ギザギザが刻み込まれています。
シンプルなデザインも相まって滑らかな曲線が際立つアッパーですが、その流線型のシルエットをバチッと引き締める仕上げです。
凄まじいビスポークシューズ感。

凝ったデザインの靴も素敵。珍しい革を使った靴も魅力的。もちろん履き心地の良い靴も最高なのですが、靴ってそれだけじゃないですよねということを思い知らされる靴です。
シルエットとバランス、そしてこの底付けというシンプルを極めたこの靴に、これほどの存在感を感じるわけですからね。

これだから革靴はやめられない!

よめせん、つまり嫁専

もともとはスーツと革靴を着用するお仕事をされていましたが、革靴を履いている時間がこんなにも長いのだからもっと快適だったらいいのにと感じるようになり、ちょっといい靴を買いはじめたことがきっかけで革靴にのめり込むという、極めて理想的なハマり方をした方です。
最初は痛いとか疲れるという印象だった革靴が、突き詰めると長く履くことを想定されている構造や機能性の高さを知り、それまでのイメージとのギャップ故どんどんのめり込んでいったと落ち着いた口調でおっしゃいます。

のめり込み過ぎた結果、靴職人さんをなさっているというわけです。というわけで外林さんのご経歴。

アマチュア時代

  • 西成製靴塾に通う
  • 大阪の某靴修理・クリーニング店勤務
  • 上京後、ベンチワークスタディに通う
  • 靴磨き・修理店『靴磨き本舗』勤務
  • 台東分校の夜間コースに通う
  • ヒロヤナギマチ トレーニングプログラムに通う
  • 以上の期間ずっと個人で靴のオーダーを受けている(年2〜3足程度)

プロ時代

  • ビスポークメーカー底付専任の職人として仕事を受ける(手製底付計100足以上)
  • コロナをきっかけに兼業靴職人に転身

靴関連のご職業に従事されたのち、現在は革靴の委託制作とご自身でも靴作りをされています。

回内のため木型の内側にコルクが盛られている

『よめせん』というお名前は『奥さまの靴づくりを専任でされている靴職人さん』であるというのが由来です。
靴作りをはじめられたのは自己表現の一環でもあったようですが、奥さま専任であることにも靴職人さんならではの理由があります。
内側縦アーチが落ち足が内側に倒れる現象を回内(かいない)と呼びますが、日本人の足にはこの回内が比較的多いと言われています。奥さまもその傾向が強く、靴に困ることが多かったというのが理由のひとつ。
そして、こういった足の問題にアプローチした靴作りを突き詰めることで、日本人に多いと言われている同じような足の方に向けての情報発信もできると考えたというのがもうひとつの理由です。

靴作りの総合力

プロとして靴作りをされるようになってからは底付け作業をすることが多く、そのままだと技術に偏りがあると感じるようになったため、靴作りの総合力を高めるために1足丸ごと作るようなったとのこと。特にビスポークの場合、底付けの工程はリレーでいうところのアンカー的ポジションなので、そこに至るまでの木型の設計意図やアッパー製作の勘所を掴めていないと最終的に良い靴が作れません。

また頭で考えるだけでなく手を動かさないと技術の会得は難しく、靴作りは分業であっても『個人の総合力』がやはり重要で、それがチームで良い靴を作る上でとても大切なこと。何でもそうだと思うのですが、自分の専門外の技術者と会話するには共通言語や体験がないと上手く意思疎通ができないので、なるべく話ができる程度には勉強することが大事だと思ったから、とおっしゃいます。

最初から最後まで総合的に靴を作ることで、底付けの精度を高めるのももちろんのこと、それの技術をご自身の情報発信や足の問題を解決する靴作りへと昇華させるためでもあるようです。

うちの『よめせん』でもあります笑

いろいろとやり取りをさせていただくなかで、僕も奥さまの靴を仕立てていただきました。
内羽根のストレートチップ。めちゃめちゃかわいいのです。

しかし、かわいいだけじゃない。

細かい部分までめちゃめちゃ繊細なのがおわかりいただけると思います。
革は女性用に使われる少し柔らかさのある、これまた非常に繊細で肌理の細かい綺麗な革です。シンプルで上質なものには余計な説明なんて必要ないとすら思える、端正という言葉が似合う靴です。
デザインこそ違いますが、最初にご覧いただいたプレーントウダービーと通ずるものがあると思えて仕方ありません。

奥さまの足計測データをもとに木型を注文していただき、仮縫いを経てこの靴を仕上げていただきました。
アッパーの仕上げの美しさももちろんですが、やはりコバまわり、とくにウェルトの仕上げにも丁寧さが滲み出ています。ハンドソーン九分なのでウェルトの目付けはありませんが、よく見るとコバ上部に刻まれている細かい段差から外林さんのこだわりが垣間見れます。

外林さんが底付けをはじめたばかりの頃、尊敬する先輩から『全てのプロセスは繋がっていて、エッジを制する者はシューメイキングを制す』との教えがあったそうです。
今でもこれを大切にされていてひとつひとつの工程を疎かにせず、角と面をしっかり出すことを特に意識されています。
また曲線・曲面とその上に整然と並ぶ連続性のあるモノに萌えを感じる、とおっしゃるのも納得。
僕も結構シンプルなものが好きなタイプなのですが、その中に滑らかな線やつながり、メリハリといった立体造形物としての美しさに興奮を覚えます。なにせ平面の革だったものが描く立体の曲線であるわけですから、そこにロマンを感じる方も多いことと思います。芸術性を帯びた道具としての美しさみたいなおもしろさがあるのも革靴の魅力と考えます。

すみません…書いていて興奮してしまったのですが、うちの奥さまはこんな贅沢な靴を履けるのかと思うとちょっと妬ましくもあり、結局僕も別の形で外林さんに靴の修理をお願いさせていただきました。
そちらはちょっと長くなりそうなのでまた別の記事で。

「自分が見ていてテンションが上がる仕上がりを心がけています」とおっしゃったのは、すでに靴から滲み出ています。
うちの奥さま以上にそのテンションを強く受け取ったと自負しておりますので。

その人のために作られた靴

ご自身のwebサイト『製靴のいろは』で靴作りを広めるご活動をされています。
「靴作りは単純におもしろい」というご自身の楽しみもありますが、人生の多くの時間を靴を履いて過ごすわけですから快適なものであってほしい、だから靴は人の足ごとに存在するパーソナルなものであるべきというのが外林さんの想いです。
靴作りを発信することで、一人ひとりの足から生まれた健やかに履ける靴が世の中にもっと増えるとよい。超絶技巧でなくてもいいから、もっと気軽に靴を作る人が増えて『その人のために作られた靴』が増えるとよいとおっしゃいます。

ご自身のwebサイトはコミュニティサイトのような運営をされていて、無料で会員登録をすると掲示板が閲覧・書き込みができたり、靴や靴作りについてわからないことを質問することができる仕組みです。
また、かなり良心的な価格で靴作りの素材を購入したり、専用の工具をレンタルできる仕組みもあります。親切。

遠隔での靴作りという試み

直近では『あなたの足から始まる普段履き』というコンセプトで、ポストマンシューズの制作をされる予定です。
アプリを使った足型遠隔採寸のモニターを募って、数値に合った木型で工数少なめの革靴を提供するというサービスです。ビスポークやフルハンドというとやはり高級なイメージになりますが、ビスポークのエッセンスを取り入れて普段使いの『その人のために作られた靴』の選択肢を提案したいというものです。

YouTubeに説明もアップされているので、是非ご覧になってみてください。

【完成レビュー】普段履きポストマンシューズが完成!

最後に

一通り記事を書かせていただいてようやく、外林さんの靴作りへの姿勢が少しわかったような気がします。
人によって違う足の問題へアプローチする靴。それは必ずしも超絶技巧と言えるような凝ったデザインでなくてもいい。それよりも、その人が快適に履けて、そして気軽に手に入れられて、なおかつ汎用性が高い、というような靴を目指して活動をされているのかなと思いました。

僕も靴好きを名乗らせていただいていますが、表面的な装飾や革といった表面的な部分に気を取られがちです。それも靴を楽しむ上ではひとつのおもしろさだと思っていますが、足を健康に保ち歩行を補助する、履物としての利便性や機能性も非常に大切なのが靴です。
その大事な部分を疎かにせず、ご自身のすべき活動にフォーカスをして靴作りに臨む外林さんの姿勢は、まさしく靴が体現してくれているように思います。

こんなにご自身の考えをしっかりとお持ちで落ち着いた話し方なので、年上でいらっしゃるに違いないと信じて疑わなかったのですが、まさかの同い年で恥ずかしくなった35の夏。

twitter:@yome_sen_shoes

instagram:@yome_sen_shoes

冒頭の靴の木型を作られた方の記事にもご期待ください。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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プロフィール

『革靴の魅力や靴磨きの楽しさをもっと多くの人に知ってほしい』という想いでブログやYouTubeで情報発信を行っています。 前職の経験からシューメーカーのブランドサイトやオンラインショップの制作・カスタマイズ、広告運用を受け持ったり、ブランディングや商品開発のコンサルなども手がけています。
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