靴職人さん

限られた時間の中で、試行錯誤から生まれる精緻でこだわりの詰まった手製靴 [Tatsuya Kamikubo]

靴磨きセットまとめ記事
靴職人さん

2022年の World championships of shoemaking で5位を受賞された上久保 辰哉さん。
普段は別のお仕事をされている方なのですが、個人的にインスタの投稿に魅力を感じていてインタビューをさせていただきました。

 

とにかく靴が素敵なのですが、それと同時に限られた時間の中でこのクオリティで靴を作れるのかというところも個人的に気になるところです。
この記事でも靴作りについて触れていきますが、インスタの投稿がとにかく魅力的なので是非そちらもご覧ください。

 

 

作業はほぼ週末のみ

 

靴づくりはどういうきっかけで、いつ頃から開始されたのでしょうか?
もともと靴がお好きだったのですか?

 

2015年の3月頃から始めました。
普段は設計の仕事をしているのですが設計は物作りのプロセスの一部に過ぎないので、自分の力だけで何かを作り上げてみたいと思ったのがきっかけです。
ある日ふと革靴はどのように作られているのだろうと思い調べているうちに作ってみたいと思うようになりました。

 

平日はお仕事をされているということは、靴づくりをされているのは、ご帰宅後か週末だけ、ということになりますよね?

 

じっくり作業できるのは週末のみです。
残業が多い仕事なので平日は深夜か早朝に1〜1.5時間作業できれば良い方です。

 

縫いの工程や吊り込みなど、まとまった時間が必要な作業があるかと思いますが、深夜でも早朝でも少しずつ作業を進められてるんですね。

 

途中で止めたくない作業は週末にまとめて行います。
靴作りは少しずつ作業が進めても問題ない工程が多いと個人的には思います。強いて言えば、日中と夜で革の見え方が異なるので常に日中に作業できれば良いのにとは思います。

 

やはり時間的な難しさもあるんですね。
立体物だからか、細かいプロダクトだからか、靴は太陽光だとより鮮明に見えますよね。

 

 

靴教室で4年、それ以降は独学

 

インスタのプロフィールには self taught と記載がありますが、ということはつまり、どなたかに師事されたわけではなく、ご自身で調べたり学ばれて靴づくりをされてるのですか?

 

コロナ前までは毎週土曜日に自宅から車で片道1時間半の靴教室(wisteria & ivyというお店)に約4年間通ってました。
自宅で靴作りの環境が整ったタイミングでコロナ禍で教室が休講になりまして、そこからはほぼ独学です。職人の方に色々聞くことは個人的には御法度と思っておりましたが、最近は困った時に教えてくれるオープンな靴職人さん達に恵まれてとても感謝しています。

 

 

ちなみに靴教室ではどんなことを学ばれたのでしょうか?

 

パターン作成、製甲、底付けを学びました。
自分で収集した道具を使ったり、様々な方法を試したり、自分自身で考えることに重点を置いている教室でしたが、今思うと自由に学びたい私にとても合っていたと思います。
仲間にも恵まれて毎回行くのが楽しかったです。

 

 

 

 

道具も好きです。
福田洋平さんのお兄さん(ジュエリーデザイナー)が作られたエッジアイロン、ウエストアイロンはお気に入りです。

 

靴教室では、一通りの工程は学ばれたという感じなんですね!
それでも本格的な道具を集められたり、工房をつくられたり、何より上久保さんの靴の作品を見れば、「週末の趣味」のレベルではない「本気度」みたいなものを感じます。

 

 

 

自宅兼工房です。

 

めちゃめちゃ素敵です!
インスタの投稿で常々拝見してた靴だけでなく、工房のインテリアからも上久保さんのセンスの高さも伺えます。
ここまで道具を集めるのも大変だったかと思いますが、限られた時間の中で良い道具を探し、良い環境を構築する過程も楽しまれているというか、その探究心の深さやこだわりみたいなものが靴作りにも表れている気がしてなりません。

 

ちなみに、ミシンのテーブルの下にパンプスのような靴が2足ありますが、女性用の靴でしょうか?

 

 

妻のために作った靴です。
妻の好みのパンプスとローファーを作っていますが、なかなかフィッティングが上手くいかず苦労しています。
メンズのローファー、スリッポンにも興味があり勉強中です。

 

現在、靴のオーダーの受付されているのでしょうか?
もしくは、基本的にはご自身で履く靴を作られているという感じでしょうか?

 

現在はお受けしておりません。
量産体制が整っておらず新規にお受けしても納期の面でご迷惑をかけてしまう恐れがあるためです。
ただ、わざわざ作って欲しいとコンタクト取ってくださる靴好きの方には是非作りたいので、ベストな方法を模索中です。
お手伝いしていただける方探してます。

 

 

World championships of shoemaking

 

2022年の World championships of shoemaking で5位の賞を取られたことについても教えてください。
Jesperさんや審査員の方から、どのような評価があったかなど、可能な範囲で教えていただけますか?

 

デザイン、難易度、緻密さの合計点で競うのですが、個々の審査員の点数は教えてもらえないのでJesperさんや審査員の方々の評価は把握していないです。
Shoegazing blog では入賞した靴のレビュー以外に私自身のバックグラウンドが紹介されていたことが嬉しかったです。
靴ではなく作り手として褒められたのは初めての経験でした。

 

 

World championshipsの靴です。
アッパーは1位の Orma shoemaker さん同様にシームレスホールカットの方法で切り出した2パーツを使っています。

 

なんと!!!!
縫い代を考えるとシームレスのホールカットを2つ吊り込んだことになるんでしょうか?

 

仰る通り2つ吊り込みました。
緻密さでは他の靴職人さん達に敵わないと思ったので難易度と奇抜さで点数を稼ごうと生まれた靴です。ただ、自由気ままに作りすぎて黒歴史になりそうです。

 

黒歴史!笑
この作品、良く見るとダブルウェルトというか、ヒール上部まで 360° の出し縫いがかけられているんですね!
それにしても精緻な作り込みで、上久保さんの性格というかお仕事の丁寧さも垣間見れます。

 

かかと部分も360度ステッチ

 

出し縫いのピッチがスーパー細かい!!!

 

 

 

ウエストは説明が難しいですが、大根の桂剥きのように残したソール吟面をサイドとステッチ側にぐるっと被せて糸目を隠しています。

 

 

Shoegazing blog では、靴の作りを詳細にレビューしてくださってますよね。そこでは、ブラインドウェルトウエストと表現されていました。

よく見るとアッパーとウェルトの間に1枚あるようにも見えますが、ストームウェルトみたいな仕様になっているのでしょうか?

 

トップラインでよく使われるビーディングをウェルトとの間に入れて底付けをしました。アッパーと同じ革です。
ストームウェルトは雨水の侵入を防ぐ機能性とデザイン性の両方を持っていますが、このビーディングは機能性は無いです。
雨水とは無縁なコンテスト靴ですので、、、ご容赦くださいませ。

 

 

デザインのインスピレーションと試行錯誤

 

インスタを拝見していると、ネイビーのロングバンプ、イミテーションブローグ、ボカルーをシワ加工されたものなど、ただ綺麗な靴というわけではなく、どこかアイデアが詰め込まれているように感じています。
上久保さんが作られる靴のアイデアやインスピレーションは、どのように生まれているのでしょうか?

 

私のほとんどのアイデアは実験に近いと思ってます。
従来のデザインや材料、製法とは違うことを試してみるとデザインの意味や先人の知恵を自分なりに紐解くヒントになります。自分用の靴は左右で芯材を変えてみたり、革の部位を変えてみたり、タブーとされているデザインを一部取り入れてみたり、日頃の疑問点を詰め込んだものになっています。

 

これはおもしろい!!!
僕も興味がある部分です。芯材や皮の部位によって履き心地がどう変わるのか、見た目がどう変わるのか…。
我々ユーザーはそのあたりの評価ってすごく難しいですが、作り手さんだからこそできる実験ですよね!

 

ネイビーのロングバンプも革の染色の実験のひとつです。

 

 

 

Annonay社のVeganoを徳島のBUAISOU.という藍染職人さんのもとで染めた革を使っています。
元々の計画は靴が出来上がった後にシューツリーごとどぶ漬けで染めるアイデアでしたが、タンニン成分が藍染液を痛めてしまう問題があり最終的にはクロム鞣しのアッパー革のみ染めるということになりました。

 

 

BUAISOU.を立ち上げた楮覚郎(かじかくお)君は幼馴染のため色々無理なお願いを聞いてくれたのですが、2人で試行錯誤する過程も含めて楽しめました。

 

幼馴染で、同じようにクリエイティブな活動をされてるなんてとっても素敵ですね!

 

あと、個人的に気になっていて、一番好きな投稿のひとつがこちらなのですが…

 

 

この投稿をInstagramで見る

 

Tatsuya Kamikubo(@tatsuya_kamikubo)がシェアした投稿

 

 

こちらの投稿のイミテーションブローグも一度吊り込んで、それを加工されてるわけですね。
アッパーは2パーツ、ライニングも1パーツでできているように見えますが、これはもう説明とか必要ないですね!
ただただ投稿を見てるだけで楽しい!!

 

ありがとうございます。
靴下のような履き心地を目指してライニングをシームレスで作ってみました。私自身の靴ではないので確かめられなかったのが少し悔しいです。

 

また、カウンター、トゥパフ、サイドライニングもシームレスにしています。こちらも一度吊り込んだ後に屈曲が多い箇所、形状を保持して欲しいところを意識して包丁で漉いて厚みを適切に変えました。

 

 

この写真、インスタで拝見して気になってました!!!
まさか芯材もシームレスだったとは…。
脱帽です!手間のかけ方が半端ない!

 

 

こちらは現在製作中の靴です。

 

 

 

ロングバンプ部のステッチはチェーンステッチです。
チェーンステッチに最近ハマってます。

 

チェーンステッチ!
これはミシンで縫えるんですか?

 

最初は手縫いで縫っていたのですがミシンで縫えることに気がつきました。
一針落として糸をクロスするという方法で、手縫いと比べると早いですが通常のミシン縫いの何倍も時間がかかります。
今回のロングバンプだと一周20分くらいです。
私のInstagramの投稿に動画(こちら)がありますので、よろしければご覧下さい。

 

 

 

上記の仮縫いです。
ディテール確認のため本番と同様にハンドソーンで作りました。
※素材の革は本番で使わない部位を使用

 

シンプルで仕上がりも美しい!
これが仮縫いとは贅沢ですね!

 

木型の切削はご自身でされているのでしょうか?

 

現在はベースラストを木型職人に複製してもらい修正して作っています。
塊からLastmakingナイフを使って削り出して作りたいのですが、状態の良いナイフと作業台にまだ出会えていません。

 

 

木型は上久保さんの好みに合わせたり、何か文献などを読みながら、実験も兼ねて修正をお願いされているという感じなのでしょうか。

 

文献はあまり見つかってないので、自分や履いてもらった感想での試行錯誤がメインです。
近々友達のセミナーに参加して学ぼうと思っています。

 

試験的にフットプリントを元に底を削ってみた木型

 

 

ヴィンテージラストに詳しい方から教えてもらって手に入れた、1910年頃?に Crockett&Jones が使っていたと思われるラストです。

 

ヴィンテージラストというアプローチもおもしろいですね!
上久保さんにとっては試行錯誤ではあると思いますが、拝見してる僕からすると、その過程の中で我々靴好きの心を刺激するどんな素晴らしい作品が投稿されるのかと楽しみでなりません!
ただただ眼福でございました!インタビューのご協力ありがとうございました!

 

 

上久保さんのインスタアカウントはこちら(@tatsuya_kamikubo

 

 

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