こちらのジョン・ロブ [John Lobb] の靴、革もデザインもとても気に入っているのですが、どうも足に合いませんでした。買った時はそれほどでもなかったし、むしろ小さめかなと思っていたのですが…。
サイズは5ですが甲が少し高く足が前滑りして小指の先が当たるので、あまり積極的に履いていませんでした。
しかし、思い入れのある1足ではあるので、手放してしまうのはもったいない!ということで、リラストをしたい思うようになりました。こちらの記事でインタビューをさせていただいた、靴職人・外林 洋和さんにお願いしました。
ということで、木型屋さんに木型制作を依頼し木型を入手。
そして靴を分解していただき、リラストをしていただきました。リラストとは『吊り込みなおす』という意味と解釈しています。(Re-LAST みたいなことでしょうか)
リラストの注意点
まず先に、リラストをする場合の注意点をご説明させてください。
違う木型で再度吊り込むことになるので、アッパーのデザインのバランスが変わります。今回はプレーントウなのでそれほど大きな問題はないだろうと思いお願いをしましたが、キャップトウやモカシンなどデザインによってはバランスが崩れることも考えられます。
また、木型のサイズも基本的には大きい靴を小さくすることしかできないはずです。外林さんがおっしゃるには、似た形状の木型でも ±5mm 足長が限度だろうとのことでした。
当然ですが仕上がりは可能な限りとなり、元には戻せません。これらすべてを納得した上でお願いしました。
ジョンロブ解体ショー!
インソックを剥がすと、中底にはしっかりと釘が打ち込まれています。
機械で作られている靴という感じがして、気持ちが高まります!
ヒールの積み上げを外し、スチールを外し…。
いよいよ King of Shoes:世界最高峰の革靴と言われるジョン・ロブの靴の中身が露わになっていきます。
本底を外すと、練りコルク。
縁までびっちりと詰められています。しかし構造だけ見るとすごく特別なことはなさそうです。
コルクを剥がすと、リブテープと昔ながらの木製のシャンク。シャンクは金属製のものしか見たことがありませんでしたが、昔は木製が主流だったようですね。最近ではプラスチック製のものもあるようですが。
ウェルトを外すと、底とアッパー(ライニング含む)を取り外すことができます。
ライニングの艶やかな質感から、革質の良さが伺えます。こちらも綺麗なのはあまり履いてなかったからです。笑
ライニングとアッパーの間にアッパーと同じ革が入ってるのがわかります。サイドの補強材でしょうか?アッパーと同じ革を使っているなんて…贅沢すぎる!
今回は、もともとの木型より少々細身の木型になりますので、アッパーの縫いしろは残っていると思いますが、木型によって、もしくは靴のサイズによっては十分な縫いしろが確保できないこともあるのではと考えます。
外林さんは新旧の木型の整合性という言葉で表現されていましたが、今回は問題なさそうでした。
分解したパーツを並べてくださいました。
お仕事が丁寧でスーパー助かります!
リラスト
中底の設計をしていただきます。
そしてハンドソーンウェルテッド製法ですので、ドブ起こし。当然のことながら先ほどご覧いただいたリブテープはありません。この溝を掘ることによって、中底とウェルトとアッパーを縫い合わせます。(すくい縫い)
プロの技を存分にご覧ください。
中底の加工を終えたら、いよいよこの木型にアッパーを這わせていきます。
まずはライニング、そしてサイドの補強革。
そしてこの!
流れ!
最高!
美しい!ただただ美しい。
この靴はグレーのミュージアムカーフ(Pewter という色)が使われてまして、サイドのストラップからぐるっと1枚の革でできています。そのアイデアは素晴らしくおもしろいので、それもこの靴を手放したくなかった理由でもありました。
この色味はやはり素敵ですよね。
この後しばらくこのまま放置することで、革に新しい木型の形状を覚えさせるわけですね。革靴は、革という素材の物性を活かしたおもしろいプロダクトだなとつくづく思います。
ウェルトが付きます。
すくい縫いのステッチの間隔も幅も均等で、滑らかな線を描いています。僕はこれだけを結構長時間見ていられます。
前足部にはコルクを詰め込んで、そして後足部には革を貼って、いよいよ本底を被せます。
被せたと思ったら早々に伏せ縫い(ヒドゥンチャネル)です。そのために、革を薄く起こします。
出し縫いです。
今回は贅沢にもフルハンドです。出し縫いも外林さんの手作業。
起こした革を元に戻せば伏せ縫いも完成です。
かかとの積み上げとトップリフトをつけるとかなり完成に近づきます!
そして、この!
流れも!
最高!
完成!
もともとロブの 8000 というラストはなかなかロングノーズのシルエットでしたが、かなりスッキリしました。
今回のセミスクエアの木型を活かして、つま先もかなりエッジの効いたシルエットに仕上げていただいています。
ウェルトのウィールが当たってるギザギザの部分、いかにもフルハンド!って感じがしてたまりません。アッパーは独特だけどシンプルなので、このギザギザも映えます。
ヒールはピッチドヒール。そしてウエスト部分はベベルドで、ソールの革をぐるっと巻き上げるような仕上げをしていただいてます。
コバとヒールの継ぎ目には段差があります。かなり手の込んだ仕上げをしていただいてることがわかります。
とても贅沢な1足となりました。
ビフォアフ!
Before
After
ラストは思ったものではなかった
しかし残念ながらこの木型は発注した内容とは違っていて、僕の思った通りの履き心地にはなりませんでした。
もともとのロブの8000という木型よりは小さいので、確実に僕の足に合うようにはなったので全然履けないことはないのです。というかむしろこんな綺麗に仕上げていただいた靴は履かないなんて選択肢はありません。
そう、履けないことはないのですが、発注した内容よりも甲が高く、幅もあり、かかとまわりもゆるいという木型でした。かかとも少し抜ける感覚があります。
木型の時点でそれを十分確認することができなかったのは、僕の責任でもありました。一度簡単にでも試作をしてから木型の仕上がりを判断すべきだったと、非常に良い経験になりました。
しかしこればっかりは非常に悔しい!
先日それをお伝えし、当初の内容で木型を作り直してもらいました。それでもまだ完璧ではないので、ちょっと修正しなければと思っています。
ただ木型があるとできることが増えるので、また別の靴も作ってみたいなぁなんて考えています。
最後に
手放せないけど足に合わなくてほとんど履いてない、という靴をお持ちの方も多いのではないでしょうか?
木型を作ってもらうと 7〜8万円、リラストをしてもらうと8〜9万円 くらいなので、靴買えるやん!という話にはなるのですが、そういうこっちゃないでしょうと。ロマン追求型でまいりましょうよと。
とにかくフルハンドでこんなに綺麗に仕上げていただいたのは単純に貴重な体験でして、大切に履いていこうと思います。
オイルを入れてうっすら鏡面したら、さらにいいですね。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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